(毎日 11月15日)
「一本を目指す」。
日本の柔道家がよく口にする言葉だ。
しかし、今夏の北京五輪ではその伝統に反旗を翻した選手がいる。
男子100キロ超級で金メダルを獲得した、石井慧(国士大)。
石井は「どんな形であれ、勝たなければ意味はない」と公言。
「1ポイントでも上回れば勝ち、と石井選手は考えている。
しかし、武道を学んだ多くの人はそうは思わない。
『結果がすべて』という価値観とは異なる」。
武道研究家として知られる福島大の中村民雄教授はそう語る。
中村教授は昨年、「今、なぜ武道か」という本を出版。
「一本」を求める価値観に、日本武道の思想が流れている。
柔道でも剣道でも、技を仕掛け、完了するまでの一連の動作を評価して
「一本」と判定する。礼法にも、相手を敬う意味がある。
しかし、西欧生まれの近代スポーツは、数値化した結果に最大の価値を置く。
「武道は過程を重視し、近代スポーツは結果による強さを追求。
文化と文化のぶつかるところ。
石井選手のように違った考えを持つ日本人も現れてきた」。
国際的発展によって、柔道は変質を余儀なくされ、
競技者の意識も変わってきた。
社会にも、成果主義の風潮が広がっている。
武道は戦後の一時期、連合国軍総司令部(GHQ)の指導によって禁止。
学校体育でも、86年までは「武道」とは呼ばず「格技」の名称が使われてきた。
軍国主義的な思想教育への懸念があったため。
ナショナリズムとの関係を指摘する声は今も根強く、
政治家の動きも見え隠れする。
中村教授は、「対人運動である武道は、『自然体』を基本に相手と向き合う。
その距離感が大切で、対人関係や国際関係を考える上で教育的価値がある。
しかし、愛国心は自然発生的なものであり、武道で教育はできない」
12年から中学1、2年生の授業で武道が必修化。
日本人の価値観の変容。
国際化の中での日本の位置。
武道が現代にもたらす意味を考える。
http://mainichi.jp/enta/sports/21century/
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