2009年1月9日金曜日

環境の旗手たち:/1 JFEスチール・小山田久美さん(45)

(毎日 1月1日)

金融危機に端を発した世界不況に包まれて幕を開けた09年。
危機を脱却し、次の経済発展の原動力になるのは環境だ。
自然の復元、温暖化対策、省エネ・新エネルギーの拡大、リサイクル……。
世界的にも優れた環境技術を持つ日本メーカーの「旗手」たちを訪ねた。

<製鉄所の鉄をつくる工程で副産物として出る鉄鋼スラグ
特殊なブロックに加工し、サンゴ礁の再生に役立てようと取り組んでいる。
脇役だったスラグが、海洋生物を救おうとしている>

サンゴの幼生(赤ちゃん)は、多くが着床する適地を得られず、
波にさらわれてしまう。
JFEがつくったスラグ製のマリンブロックは、しっかり根付かせるために役立てる。
スラグに二酸化炭素(CO2)のガスを加えて固めたもので、
サンゴとほぼ同じ成分。
周囲の環境に負荷を与えることはない。

<マリンブロックは、製造時に微小な無数の穴ができる。
それが、幼生の隠れ家になる。
01年、担当に起用されて実証実験に加わった。
0・5ミリほどの幼生を着床させることに成功。しかし、魚に食べられてしまった>

幼生を保護し、成長させるにはどうしたらいいか。
考えていたら、東京海洋大学の岡本峰雄准教授が、直径4センチほどの
傘のような形をした着床具を開発。
着床具をブロックの上に取り付け、傘の裏側などに着床させられれば、
魚などの外敵から守ることができる。

<03年に、環境省が行う沖縄県石垣島と西表島に広がるサンゴ礁、
石西礁湖で本格的な実験に参加。
05年には、独自に宮古島などでサンゴ礁の再生プロジェクトに乗り出し、
一辺1メートル、高さ50センチの立方体のブロックを海底に4個沈めた>

実験ではいずれも、着床具とマリンブロックを組み合わせることで
高い着床率を保てることが分かった。
着床率の向上を目指し、07年秋から着床具の素材もセラミックから、
スラグに変えた。
スラグは、表面に凹凸をつけられるので、幼生がより定着しやすくなる。
台風の影響を防ぐため、強度を増す工夫。

<沖縄は世界でも有数のサンゴ礁を誇るが、
98年に海水温上昇に伴う死滅が一部確認。
07年の石垣島・白保海域の調査では、死滅や衰退で白っぽく見える
白化現象が5割に及んでいることが判明。サンゴの再生は待ったなしだ>

サンゴの成長は非常にゆっくりしていて、1年半で数センチぐらい。
2年半後ぐらいに10センチ程度に成長し、サンゴらしくなるが、
一面に広がるには最低でも10年以上の長い時間が必要。
一企業のできることには限界があるので、
国や自治体なども力を合わせて行動することが大切。

<子どものころから生物好き。
親に顕微鏡を買ってもらい、夢中になって川や海に出かけた。
サンゴ再生を自分の目で確かめようと、スキューバダイビングのライセンスも取得>

生物はそれぞれ役割や関連があり、生態系をなしている。
サンゴを増やせば、沖縄の海の豊かさを守ることができる。
南太平洋には、サンゴ礁でできている島々があり、
生活基盤が脅かされようとしている人たちも。
技術やノウハウを提供し、広く自然環境に貢献したい。
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◇鉄鋼スラグ

鉄鉱石から鉄を取り出す高炉や、鉄をはがねにする製鋼の工程で
発生する残りカス。鉱滓とも呼ぶ。主成分は石灰。
かつては産業廃棄物として厄介者扱いされたが、
セメントの原料や道路の路盤材に再利用されるようになり、
最近では人工干潟の造成にも使われている。
鉄鋼スラグ協会(東京)によると、国内では年約4000万トン発生。
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◇おやまだ・くみ

東北大大学院博士前期課程修了(生物学)。
89年、NKK(現JFEスチール)入社、微生物による水処理の研究などに従事。
01年、マリンブロック研究に携わり、
07年4月から資源循環推進部主任部員。宮城県出身。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/01/01/20090101ddm008020045000c.html

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