2009年1月9日金曜日

特集:MOTTAINAI 第2のステージへ 宗教学者・山折哲雄さんに聞く

(毎日 1月5日)

MOTTAINAIキャンペーンは、「第2のステージに来ている」と
京都在住の宗教学者、山折哲雄さん(77)は説く。
五百年、千年と日本人の心のDNAに刻まれているはずの「腹八分」の世界は、
「もったいない」に並ぶ言葉だといい、新年を迎え、
この価値観を改めて国内外に発信すべきだと提案。
(聞き手:毎日新聞社MOTTAINAIキャンペーン事務局長・真田和義)

俳人でもある東本願寺第23世法主、大谷光演(1875~1943年、大谷句仏)
を山折さんは紹介。

勿体なや祖師は紙衣(かみこ)の九十年(我は我)

祖師とは、鎌倉時代の浄土真宗の開祖、親鸞。
紙衣(紙子とも書く)とは当時、粗末な衣装であった紙の着物。
九十歳まで生きた、師である親鸞の質素な生活ぶりを例にして、
尊敬と同時に、豊かな時代に暮らしていることへの自省を込めている。

もう一句。俳聖といわれる松尾芭蕉(1644~1694年)。

あらたうと青葉若葉の日の光(奥の細道)

すべてが日の光に照らされ、「ああ、尊い」と感謝する心こそ、
日本人の価値観を象徴的に表している。

日本を代表する詩人、北原白秋(1885~1942年)の歌。

勿体なや何を見てもよ日のしづく日の光日のしづく日の涙(真珠抄)

苦難の時代に太陽を全身に浴びて輝いたとき、
思わず「ああ、ありがたい」、「まあ、もったいない」と思う気持ち。
山折さんは、「この3句に、日本人のライフスタイルを意味づけるものがあり、
まず、日本人自身がそのことを知らねばならない」

◆食べ過ぎを戒める

なるほど、深い。
事務局は、「もったいない」を世界の合言葉「MOTTAINAI」と表記し、
マータイさんと一緒に世界に発信。
その意味は、資源の有効活用である3R(リデュース、リユース、リサイクル)
Respect(リスペクト、感謝)。
山折さんは、「もったいないは、国際語としてマータイさんのおかげで産声を上げた」
としながらも、「五百年、千年と日本の歴史の中で積み重ねた価値観からすると、
この四つのRの意味合いだけではカバーし切れていない」

今後のキャンペーンの発展に、「腹八分」が不可欠。
「これからは知育、体育、徳育だけでなく、まさに食育が重要。
食でのさまざまなメッセージが発せられているが、一つ足りないもの。
それこそ、『そんなに食べるなよ』。
食べ過ぎの問題は、同時に食べ残しの問題でも。
二分残す腹八分の価値観こそ、もったいないに対応し、並ぶものだ」

◆無常と覚悟の戦略

100年に1度といわれる世界的な景気悪化に直面し、
日本人はこの問題をどうとらえ、行動すべきか。
山折さんは、「エコノミストらは危機感をあおるが、景気は循環するのが
本質ではないですか。『無常』という価値観になる。
その根底に、『覚悟』するという価値観がある」

これに対して、「欧米は『生き残り戦略』で、つまりノアの箱舟に示されるように
選ばれた者が生き残っていく選別の思想がある。
今や、日本もスッポリとその傘の中に入ってしまっている」

日本人は、無常と覚悟の戦略が心のDNAに無意識に流れており、
これがMOTTAINAIに通じる」として、キャンペーンで世界に「無常と覚悟」の
新たな潮流を作るべき。

新たな流れとか、歴史的な変革といえば、
米国大統領に就任するバラク・オバマ氏だろう。
山折さんは、オバマ氏がシカゴで行った大統領選勝利演説に触れた。
「老いも若きも、金持ちも貧乏人も、共和党員も民主党員も、黒人も白人も……」
と続くくだりの最後に、「単なる寄せ集めではなく、一つのアメリカ合衆国だ
(the United States of America)」と結んだ点を取り上げ、
「地球は一つといってもらえれば、なお、よい。
キャンペーンで提案してはどうか」

◆京都で千年の歴史サミットを

日本の都市、とりわけ京都を取り上げ、千年の歴史サミットを提案。
招くのはエルサレム、モスクワ、西安、ベナレスなど。
「尖塔、城郭、カテドラル……どれほどのエネルギー、資源が費やされたか。

その中で、京都は少ないエネルギーで作られてきたことが歴然。
駅前の京都タワーにのぼってみると、山しか見えない。
寺院は、木立の中に隠れている。
自然との共存関係が明瞭に表れている。
千年の歴史サミットを通じて、地球環境との共生を考えたい」

インタビューを終え、「もったいない」が持つ、深い価値観を考えるとともに、
事務局の使命を改めてかみ締めた。

◇世界へ羽ばたく理念 3R+RespectとCHANGEの連携

米国シカゴでのバラク・オバマ次期大統領勝利演説を聞いたとき、
2年前のケニア・ナイロビの記憶が鮮明によみがえった。

06年8月28日、毎日新聞MOTTAINAIキャンペーン・チームは
晴天下のウフル公園にいた。
04年ノーベル平和賞受賞者で、キャンペーン名誉会長でもある
ワンガリ・マータイさんとオバマ上院議員(当時)、妻ミシェルさん、
娘マリアさん、サーシャさんの一家が、アフリカン・オリーブの木を記念植樹。
チームは、大勢の報道陣に交じっていた。
マータイさんが、「日本から毎日新聞が取材に来ています」と紹介すると、
オバマ氏は労をねぎらうように優しいまなざしをチームに向けた。

「もし、近い将来、アフリカ系アメリカ人が米国大統領になるなら、
この人しかいない」。
父親の祖国、ケニアで連日、まるで凱旋したかのように大報道していただけに、
その熱気も浴びてチームがそう感じたのも無理がない。

2日後、ナイロビから200キロ離れたマサイマラでオバマ氏と再び会い、
MOTTAINAIキャンペーンを説明し、日本の伝統文化としてキャンペーンの
象徴的なグッズである風呂敷を贈る機会を得た。
スリムで精悍なオバマ氏は、握手も力強く、映画スターのようにかっこ良かった。

人との出会いは不思議であり、とてもエキサイティングだと思う。
マータイさんが、そうだ。
05年2月、地球環境を守るキャンペーンに力を入れている毎日新聞が、
マータイさんを初めて日本に招くことができた。

マータイさんは、仏教に由来する日本語「もったいない」に共感した。
資源の効率的活用である3R(Reduce、Reuse、Recycle)+Respectを
一言で言い表せる言葉をマータイさんは探していた。
この出会いがなければ、キャンペーンは始まらなかった。

3月4日、国連で開かれた女性の地位向上委員会会議の席上、
マータイさんは「MOTTAINAI!」を呼びかけ、世界への発信を開始。

この1年余り後に、マータイさんはオバマ氏と植樹し、
オバマ氏はこの1月20日、ワシントンで第44代大統領就任式を迎える。
MOTTAINAIは、地球温暖化をストップし、低炭素社会に向けライフスタイルを
変えていこうという取り組み。
オバマ氏は、現状を「CHANGE」し、環境と新エネルギーの取り組みを公約。
MOTTAINAIとCHANGEがタッグを組むことも、夢ではないだろう。
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◇やまおり・てつお

1931年、米サンフランシスコ生まれ。国立歴史民俗博物館教授、
国際日本文化研究センター所長など歴任。
近著に「信ずる宗教、感ずる宗教」(中央公論新社)。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/01/05/20090105ddm010040024000c.html

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