2009年2月14日土曜日

あこがれの科学者をどう育てるか

(日経 2009-02-06)

都内のアイススケート場は、休日ともなると小中学生であふれている。
フィギュアスケートのグランプリファイナルで、2度目の優勝を果たした
浅田真央選手をはじめ、世界で活躍する若い日本人選手が
相次いで登場している影響が大きい。
科学技術分野でも、若者たちのあこがれとなるような研究者、科学者の
出現が欠かせない。


1年ほど前、高校卒業を目前にしたバイオリニストのリサイタルの抽選が当たり、
無料で演奏を楽しむ機会があった。
きゃしゃながら、みずみずしく張り詰めた音を奏で、聴いていてとても満足。
録音を兼ねていたようで、その演奏がデビューCDとして発売、
応援の気持ちから迷わず購入した。

様々な分野で有望な若手が登場する姿を見ると、
「日本はまだ捨てたものじゃないな」という感慨に。
将来を託される無限の能力に、羨望すら覚える。

イチローや松井秀喜ら米大リーグに挑む野球選手、
スコットランド・プレミアリーグの中村俊輔らサッカー選手——。
一流の人材が世界から集うスポーツや芸術といった分野ならなおのこと、
にわか“愛国心”が首をもたげ、彼ら彼女らに努力と活躍を求め、
成果を期待してしまう。
逆に言えば、若い挑戦者が現れない分野は、未来は暗い。

◆「ナイスステップな研究者」の2008年度選定者

〇研究
新津洋司郎 特任教授(札幌医科大学)
肝硬変など様々な難治性疾患の治療法開発

細野秀雄 教授(東京工業大学)
第三の超電導物質、鉄系高温超電導体の発見

三浦道子 教授(広島大学)
半導体超微細化時代に適合するトランジスタモデルの開発と国際標準化

山口茂弘 教授(名古屋大学)
高性能有機エレクトロニクス材料の開発

若山照彦 チームリーダー(理化学研究所)
凍結死体の体細胞からのクローン個体作製

〇プロジェクト・国際研究交流
池田裕二郎 物質・生命科学ディビジョン長ら3人(日本原子力研究開発機構)
先端的な加速器パルス中性子源の開発

嶋田雅暁 教授(長崎大学)
ケニアを拠点とした感染症対策の国際研究交流

〇人材育成・男女共同参画
河野(平田)典子 教授(日本大学)
女性研究者支援、女子学生に対する教育活動

米田仁紀 教授(電気通信大学)
先進的な工学系大学院教育プログラムの開発と実施

〇成果普及・理解増進
新井紀子 教授(国立情報学研究所)
Webを活用した情報共有サイト構築ソフトを無償公開。

最近は、国の競争力や経済の活性化と結びつけて考える傾向が強まり、
意識して社会の関心を科学技術に向けよう、有望な若手研究者を育てようとする
施策や計画が目立つ。

文部科学省は、2005年度から若手科学者を顕彰する制度を設け、
文科省科学技術政策研究所も同年度から注目すべき業績をあげた人を
「ナイスステップな研究者」として選考。

ソフトウエア分野に限定しているが、経済産業省の「未踏ソフトウェア創造事業」
天才プログラマーらを認定。
行政が毎年の恒例事業として進めると、候補者を集めなければいけなくなるし、
マンネリ化して表彰のインパクトも弱くなってくる。
こうした制度を否定するつもりはないが、若者が強く関心を抱いて
飛び込んでいくには、あこがれとなる人の存在が必要。

日本人初のノーベル賞受賞者となった湯川秀樹博士を引き合いに出すまでもなく、
その存在感は圧倒的。
今年の大学入試で、名古屋大学理学部の志願者倍率は、
08年のノーベル賞受賞者が籍を置いた効果で急上昇。

今の日本に、社会のあこがれの対象となるような科学者はいるのだろうか?
日本の大学や研究所は、有望な若者たちがそこで研究したいと思われるような
環境を整えているのだろうか?
第3期科学技術基本計画の中間評価が始まる09年にじっくりと考えたい。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec090204.html

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