(読売 4月2日)
ブナやコナラといった、広葉樹の植林活動ブームが続いている。
ふるさとの山の再生や二酸化炭素の吸収源対策などにつながるが、
現状のままだと、善意の行いが自然環境を汚す結果をもたらす恐れがある。
その実態と対策を、2回に分けてリポート。
「葉の開く時期がばらばら。
植えてから10年近くたつのに、この程度しか育たないブナもあるなんて……」
東北大学の陶山佳久准教授は2006年、宮城県栗原市にある
ブナの人工林を調査してあぜんとした。
植林年などが書かれた森林簿で、
259本すべてが1988年に植えられたことがわかっていた。
樹高も幹の直径も、あまりにばらばらだった。
陶山さんは05年、遺伝子解析によって、宮城県内のブナの天然林が
日本海側タイプと太平洋側タイプの2系統に大きく分けられる。
人工林のブナを調べたところ、樹高は日本海側タイプが平均4・49メートル、
太平洋側タイプは同3・43メートル。
地上30センチでの幹の直径も6・3センチ、4・5センチと、
歴然とした差が生じていた。
栗原市は、内陸型気候。
冬は深雪に覆われ、もともと生えていたブナは日本海側タイプ。
陶山さんは、「積雪などの気象環境に対する適応度の違いが
関係しているのではないか」
長野県では、これとは違う異変。
県中南部で植樹されたブナは、植えて5年ほどたつと、
樹高が高くなるどころか低くなってしまう。
この現象を見つけた県林業総合センターの小山泰弘研究員は、
「冬芽は出るが、春になると中身がなくなり、触るとぼろぼろになる」
長野県の天然ブナを遺伝子解析すると、
〈1〉日本海側タイプ(県北)、〈2〉北関東タイプ(浅間山周辺)、
〈3〉富士山・伊豆タイプ(諏訪・松本)、〈4〉愛知タイプ(木曽)に大別。
植えられる苗木の大半は、日本海側タイプ。
小山さんは、「雪が少なく気温が下がりやすい県中南部では、
凍害に似た現象が起きている可能性がある」
地域環境に適応した遺伝情報を持つ集団と、
外部から持ち込まれた集団が交配すると、遺伝情報が混ざって
環境適応能力が落ちる「外交弱勢」という現象が起きる。
この問題について、環境省研究班で代表を務める森林総合研究所の
津村義彦・樹木遺伝研究室長は、「そういう樹木が枯れずに残って
交配が繰り返された場合、周囲の樹木が成長を妨げられる恐れがある。
樹木は寿命が長いため、影響に気づきにくい」
岐阜県内のオオヤマザクラとエドヒガンの種子を調べ、
双方にソメイヨシノの遺伝情報が混ざっていることを確認したのは、
岐阜大学の向井譲教授。
エドヒガンの場合、その割合は解析した木の1割。
向井さんは、「ヤマザクラとソメイヨシノは別種だが、まれに遺伝子が混じる。
サクラには自家不和合性があるが、ソメイヨシノの遺伝子が混じった
ヤマザクラは、ふつうのヤマザクラとの間で子孫を増やし、
ソメイヨシノの遺伝情報をヤマザクラの中に広げていってしまう可能性」
国をあげて進む広葉樹の緑化事業で、
外交弱勢が起きている可能性がある。
針葉樹は、林業種苗法によって、生産地から離れた場所で
苗を植えないよう、スギは全国を7区域、ヒノキは3区域という具合に
配布区域を設けている。
広葉樹の苗は法的制限がないため、韓国や中国なども含め、
国内どこからでも入手可能。
津村さんは、「交雑が進めば、回復に数万年、数十万年もかかる」と警告。
◆自家不和合性
感染症などによる絶滅につながる近親交配を避けるため、
植物が進化させた性質。
花粉が、同じ個体に咲いた別の花のめしべに付着(自家受粉)すると、
めしべが「自己」と認識し、拒絶する。
サクラやリンゴなどのバラ科、ハクサイなどのアブラナ科、
花の構造が違うもの同士しか受精が成立しないサクラソウなどが知られる。
イネなど、自分の花粉でも構わず受粉させる自家和合性の植物も多い。
http://www.yomiuri.co.jp/eco/ryokuka/ryokuka090402_01.htm
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