2009年4月7日火曜日

ノーベル賞:受賞3氏、子どもたちと交流 素朴な疑問に答え、生き方も指南

(毎日 3月31日)

ノーベル物理学賞を受賞した小林誠・高エネルギー加速器研究機構
特別栄誉教授(64)と益川敏英・京都産業大教授(69)、
化学賞の下村脩・米ウッズホール海洋生物学研究所特別上席研究員(80)
の3氏が、子どもたちや学生と交流するイベントが相次いで開かれた。
科学者は、子どもらの素朴な疑問に真剣に答え、
独特の言い回しで将来の生き方を指南。

◆なぜ生物は死ぬの?

小林さんと益川さんは、日本科学未来館で小学生と父母ら110人と対話。
2人は、子どもたちと一緒のテーブルを囲み、約1時間、議論に参加。
毛利衛館長と塩谷立文部科学相も加わり、
子どもたちから事前に寄せられた質問をもとに議論は進んだ。

「どうして生物は死ぬの?」との質問では、
ずっと生きていたいかどうかで子どもたちの意見が分かれた。
「将来、地底を探検したいので、ずっと生きていたい」との意見がある一方、
「知り合いがみんな死んで、自分だけ生きていても仕方がない」との声も。

益川さんは、「生物は死ぬことで進化してきた」と切り出した。
「生命の設計図DNAが人間の中にある。
死ぬから、新しい世代へとコピーが行われるが、
そこで、エラーが起きることがある。
悪い結果もあるが、より優れたものができる可能性がある。
永遠の命だと、一番最初の細胞のままで進化しない。
命は未来につながっていくのだから、安心して死にましょう」

小林さんは、「生命は、自然界の中で非常に微妙なバランスを保っている。
どんな機械だって壊れる。
微妙な生命の仕組みが壊れていくのは、自然なこと。
それを救う仕組みが子孫を残すこと」

◆自分に合うもの探せ

「科学とは何か」との質問に、
小林さんは、「ある事柄が正しいかどうか十分に検証し、
判定できるものに基づいて考えること。
そうやって得た知識は、人間の行動を決定するときに一番頼りになる」

益川さんは、「自分が楽しみながら努力できることを探してください。
少し我慢して続けることで、楽しくなってくることも。
努力が楽しみを発見し、努力の原動力となることも。
人生を楽しむと同時に、社会に役に立つことができるようになる」

司会者が、「勉強が嫌いな人は?」と問うと、
小林さんが子どもに交じって勢いよく手を挙げた。
益川さんは、「『勉強』という言葉が良くない。強いられるのは嫌い」

東京都目黒区の林駿君(12)は、「尊敬する2人の先生を自分の目で
見ることができて感動した。益川先生から、
『自分に合ったものを探しなさい』と言われたことが一番印象に残った」

◆対話前に素粒子実験

対話の前に「霧箱」を作って、宇宙から地球に絶えず高速で降りそそぐ
放射線を観察する実験も行われた。
同館のサイエンスコミュニケーター、槌野貴子さんがやさしく説明。

槌野さんは、ポテトチップスを手に「これは何でできていますか?」と尋ねた。
科学好きの子どもたちからは、いきなり「素粒子!」との声。
槌野さんは原料のジャガイモから、分子、原子、素粒子までさかのぼって
物質の成り立ちを解説。

霧箱は、透明なケースの中にアルコールを少し入れ、
ドライアイスで冷やして、霧を発生させる装置。
普段は目に見えない放射線が通った跡を見ることができる。
子どもたちには、簡単な工作用の霧箱のキットが配られ、
ボランティアらの指導で組み立てた。

周囲を暗くして、発光ダイオードで照らすと、
飛行機雲のような白い線がくっきりと浮かび、
会場のあちこちから「見えたよ」との歓声が上がった。

◆若者の奮起期待

下村さんは、母校の長崎大で、同大生300人、
長崎県内の高校生200人、中学生20人らの前で講演。

旧制諫早中(現・諫早高)時代の45年8月9日、
長崎原爆の閃光を目撃した体験を話した。
学徒動員で実質1日しか登校できず、戦後の混乱の中で
「進学のための内申書がもらえず、2年間浪人した。
一番みじめな期間だった」

受賞理由となったオワンクラゲの研究を紹介、
実際に緑色蛍光たんぱく質(GFP)を光らせてみせた。
下村さんは、「他にも無数の発光生物がいるが、
大部分が科学的には未解決。
思いがけない反応が発見できる宝庫だが、成功率が低いので
研究者はほんのわずか。若い人は『難しい』と言わず、
積極的にチャレンジしてほしい。
達成した時の喜びは大きい。努力あるのみ」と奮起を促した。
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◆3氏の業績

ミクロの世界では、物質を作る粒子と、電荷が反対の反粒子は
対等の関係だが、現実の世界には物質しかない。
小林さんと益川さんの2人は、素粒子のクォークが少なくとも6種類あれば、
この違いを説明できることを初めて示した。
日本の実験チームらによって、この理論が実証され、
08年のノーベル物理学賞に輝いた。

下村さんは、発光生物のオワンクラゲからGFPを発見。
GFPは、細胞内でのたんぱく質の動きを探る「道具」として、
生命科学などの分野で不可欠な存在。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/03/31/20090331ddm016040130000c.html

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