2009年4月6日月曜日

挑戦のとき/7 米ワシントン大准教授・鳥居啓子さん

(毎日 3月31日)

植物は、呼吸や光合成の際、表皮にある小さな穴(気孔)を開閉し、
酸素や二酸化炭素、水蒸気を出し入れする。
数億年前、植物が海中から陸上に進出した際、獲得した巧みな機能。
植物の生存に不可欠な気孔が形成される仕組みは、最近まで謎。

アブラナ科のシロイヌナズナを使い、その仕組みを解明したのが鳥居さん。
さまざまな突然変異体から、その特徴を引き出す遺伝子を特定する
手法で研究を続けた。

05年、気孔の形成を左右する3種類の遺伝子を突き止め、
米科学誌サイエンスに発表。
これら3種類の遺伝子をすべて欠くシロイヌナズナは、
気孔の数が大幅に増えた。
鳥居さんは、「顕微鏡を見ていた研究員が興奮して知らせに来た。
のぞいてみたら、気孔だらけでびっくりした」

07年、3つの遺伝子が順番に作用することで、未分化な表皮細胞から
気孔が作り出されることを示した。
表皮の細胞は、放っておくと気孔になろうとする性質があり、
3種類の遺伝子はそれを食い止める働き。
「パズルを解くようなシンプルさが魅力」と語る通り、
植物の基本的な仕組みを解明した業績として注目。

幼いころから、虫や図鑑が好きだった。
小学校に上がるころ、母親から「何か買ってあげる」と言われ、
顕微鏡を希望した。
その顕微鏡で、水たまりの水などを見るのに夢中。
小麦粉の中にダニを見つけたりして驚いていた。

「学園都市」の響きにあこがれ、筑波大へ。
「植物の遺伝子組み換え技術が実用化され、新しい時代が始まるという
活気に満ちていた。植物の多様性がどうしてできるのか不思議だった

博士号取得の翌年、「とりあえず半年」という受け入れ先との約束で
渡米して以来、米国生活は15年。
今の大学で知り合ったドイツ人理論物理学者の夫との間に、
5歳と2歳になる子どもがいる。
乳飲み子を連れて、教授会や講義をこなしたことも。
第2子を出産した日、英科学誌ネイチャーに論文が掲載。

「科学者になりたいというより、好きなことを続けていたらここまで来た。
元は一つの受精卵から出発した細胞同士が、
どのようなコミュニケーションを取り、さまざまな役割の器官に
分化していくかを解明したい」
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◇とりい・けいこ

東京都出身。93年、筑波大大学院博士課程修了。
東京大、米エール大、ミシガン大で任期付き研究員を経験し、
99年にワシントン大助教授。05年から現職。
08年度の日本学術振興会賞を受賞。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20090331ddm016040137000c.html

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