2009年4月11日土曜日

摘めるか「保護主義の芽」

(日経 2009/04/03)

◇安井明彦(みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長)

20カ国・地域(G20)首脳会合(金融サミット)が閉会。
財政政策や金融規制について、米欧の温度差が報じられる中、
各国の意見が早々に一致したのが、保護主義防止の必要。

オバマ大統領も、「各国は共通の目的をもって行動しなければならない」、
保護主義の誘惑に抵抗する必要性を強調。
単純な保護主義批判だけでは、世論の保護主義化を抑えるのは難しい。
経済危機が深刻化する中で、世論が保護主義に傾くのは、自然な流れ。

国民が政府に求めているのは、「保護」。
自国製品の使用を義務付ける米国の「バイアメリカン条項」のように、
景気対策の成果を自国内にとどめようとするのも当然。

◆「政策効果の海外流出」に懸念

景気対策には、政府債務の増大というコストがある。
このコストは、国民が税金などを通じて負担しなければならない。
国際通貨基金(IMF)の推計によれば、米国の景気対策には、
欧州や日本の実質経済成長率を2010年時点で、
0.5ポイントずつ引き上げる効果がある。
輸入を通じて、景気対策の効果が外に漏れ出すからだ。

金融サミットに先立って、オバマ政権が各国に積極的な財政出動を
働きかけたのには、自由貿易の擁護という点で重要。
世論の保護主義への傾斜に歯止めをかけるには、
経済危機の克服に各国が果敢に取り組む必要。

各国が協調して財政出動すれば、政策の効果が外に漏れ出してしまう
という批判に対応しやすくなる。
米国の財政出動が、世界景気の回復をけん引するような絵柄になれば、
米国の対外収支の赤字は膨らみ、通商摩擦の一因となる
グローバルな不均衡が温存されかねない。

オバマ大統領も、「全ての(首脳会合)参加国が成長促進に努めれば、
各国は自国で国際貿易の重要性を訴えやすくなる。
各々が輸入をせずに、輸出だけに頼るような状況ではなく、
バランスのとれたアプローチになる」

◆トーンダウンしたオバマ政権

ドイツをはじめとする大陸欧州諸国の強い反対もあり、
オバマ政権は金融サミットを待たずに、
財政出動に関する呼びかけをトーンダウン。

反対の背景には、欧州諸国のセーフティーネット(安全網)が
米国よりも整備されているため、裁量的な財政出動をしなくても、
財政赤字が自然に拡大し、景気を支える力が働きやすいという事情。

欧州には、今回の経済危機の原因をつくったのは米国であり、
修復の責任は米国が負うべきだという思いもある。
金融サミットを終え、保護主義を巡る議論は各国の内政に舞台が移る。

見逃せないのは、経済危機が深刻化する前から、
先進国でグローバリゼーションへの懐疑的な見方が強まっていた。

英フィナンシャル・タイムズが米欧で実施した世論調査の結果を受け、
「富裕な国で、グローバリゼーションへの反動が起こっている」と
報じたのは07年7月。
07年3月、米ウォールストリート・ジャーナルが実施した世論調査でも、
自由貿易協定は米国のためになっていないという回答が半数近く。

マクロ経済の視点でいえば、「保護主義」では本当の「保護」は得られない。
純粋に自由貿易の恩恵を強調するだけでは、
グローバリゼーションへ懐疑的になっている国民の心には届かない。
自由貿易は、国民から「保護」をはぎ取る動きだという印象が強まる懸念。

◆命運握る医療・資源政策

保護主義化を防ぐには、自由貿易との整合性を保ちながら、
国民に「保護」を提供する知恵が必要。
バイアメリカン条項を巡る議論に見られるように、
オバマ政権は議会における保護主義の行き過ぎを
瀬戸際で防止しようとしてきた。

オバマ政権が進める医療保険改革やエネルギー改革にも、
「医療保険の喪失」や「エネルギー価格の高騰」といった
国民生活に潜むリスクを軽減し、保護主義の芽を摘む役割。
自由貿易の命運を握る鍵は、通商以外の政策が握っている。

http://netplus.nikkei.co.jp/forum/kosaten/t_379/e_1796.php

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