(日経 2009-04-23)
IT業界が長年親しんできたすみ分けの構図が、音を立てて崩れ始めた。
ネットワーク機器のガリバー、米シスコシステムズが
自前のブレード型サーバーの販売開始を発表。
企業向け業務ソフト最大手のオラクルがサーバー大手、
サン・マイクロシステムズの買収を発表、サーバー市場に参入。
パソコンの普及とともに広がった水平分業構造が崩れ、
ハードとシステム開発サービスを軸に据えてきた日本のITメーカーを
取り巻く競争環境が厳しさを増しそう。
オラクルは、元々リレーショナル・データベース・ソフト(RDB)の
専業ソフトハウス。
RDBを活用する企業向け業務ソフトである統合基幹業務システム(ERP)や、
ウェブサイト運営用などに使うアプリケーション・サーバーなどの
各種業務ソフトを加え、企業向け総合ソフトハウスに成長。
ERP大手だった米ピープルソフトや顧客情報管理(CRM)ソフト最大手だった
シーベルを買収、巨大ソフト企業に育った。
サンは、元々ネットワークで結んで使うことを前提にした
小型コンピューターであるワークステーションのメーカー。
ハードの根幹であるMPU(超小型演算処理装置)の「スパーク」、
UNIXベースの基本ソフト(OS)である「ソラリス」を独自開発。
先端チップの開発を進める一方、現在のクラウドコンピューティングの
基礎となったプログラミング言語であるJAVAを開発。
MPUとOSを、別々の企業が担うパソコン型水平分業構造が
IT産業に広がる前の垂直統合型モデルをパソコン革命、
ネット革命の波を経ても維持した、数少ないIT企業の一つ。
OSより上のレイヤーの総合ソフト企業であるオラクルが、のみ込む。
オラクルは、1番下のハードレーヤーからそのすぐ上のOS、
ミドルウエア、業務ソフトまで、一気通貫で供給できる総合ITメーカーに。
シスコも元々は、ネットワーク上の郵便局に当たるルーターと呼ばれる
制御機器の専業。
電話交換機に似たスイッチと呼ばれる、より高速のネットワーク通信制御機器を
加え、インターネットの世界的な成長とともに高成長を続けてきた。
ネットワーク機器は一見ハードだが、性能や機能を決定的に左右するのは
OSや各種機能を制御するソフト群。
シスコは、自社で工場を持たないファブレス・メーカーで、
ハードとソフトを一体で売る垂直統合モデルで高収益を上げてきた。
利益の源泉の主軸は、ルーター・スイッチ市場で圧倒的なシェアを握るOS、
「IOS」だった。
オラクル同様、シスコもソフトウエアがコア・コンペタンスという点で共通。
同社が発表した「ユニファイド・コンピューティング・システム」(UCS)は、
シスコが純粋ハードであるサーバーを自社開発し販売することを意味。
シスコは、サーバーを単体で売ろうとはしていない。
ブランド名が示す通り、サーバーとネットワーク機器、
ストレージ(外部記憶装置)など、データセンターの各構成要素を
セットで売ろうというのがUCSの肝。
ストレージ、仮想化、RDBや業務ソフトなど、各種ソフトを提携企業から
供給を受け、データセンター構築を受注。
オラクル、シスコともハードとソフトを組みあわせたシステム全体を
セットで供給できる体制が整う。
単体のコンピューターの垂直統合ではなく、
システム全体の垂直統合と言い換えてもよい。
サンのスコット・マクネリー会長はこれまで再三、
「車が欲しい人は完成車を買う。
エンジンやドアを別々に買う人はいない。
コンピューターもその方が合理的」と繰り返してきた。
それが身売りの形で実現。
部品市場をほぼ独占したマイクロソフトとインテルが支配する
IT産業の水平分業構造は、明らかに終焉を迎えつつある。
危機にさらされるのが、日本のITメーカー。
富士通もNECも、シスコのネットワーク機器、オラクルのソフトと
自社サーバーを組みあわせたシステム構築サービスを大きな収益源。
両社ともサーバーが自社供給となれば、
自社サーバーを売る余地が狭まる。
オラクル、シスコとも従来の提携関係を見直すとはひと言も言っていない。
シスコの日本向けUCS説明会で登壇した提携企業に、
富士通もNECも含まれていなかった。
そもそも一体何を売り物にしていくのか?
テーラーメードのソフトウエアに注力するのか?
システム構築作業の請負業に徹するのか?
国内のIT大手企業は、ますます基本的な中軸技術と
ビジネスモデルの再設定を迫られそう。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ittrend/itt090422.html
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