(読売 4月12日)
政府は、国内で学ぶ留学生を30万人に増やす目標を新たに掲げた。
大学や研究機関は、海外の優秀な頭脳を確保しようと躍起。
科学技術創造立国の課題を追う連載の第2部では、
日本が目指す、真の国際化のあり方を問いたい。
データの解釈を巡り、英語の白熱した議論が続く。
つくば市の物質・材料研究機構。
中心に、インド人のヴィヌ・アジャヤン主任研究員(32)がいる。
微細な穴を持つ化合物を合成し、燃料電池の電極などに応用する
研究チームで、インドやイラン、アフガニスタン出身の8人の研究者を率いる。
今春、優れた若手研究者に贈られる日本化学会の進歩賞を受賞。
日本の材料科学研究をリードする物材機構には、
化合物の合成、計測、分析を行う1215人の研究者が在籍。
うち19%が、ヴィヌさんのような外国人。
「文化、教育、言語が違う研究者が集まることで、新しい発想が生まれる」
(岸輝雄理事長)との理念に基づき、英語を公用語にするなど
国際化を積極的に推進。
日本人研究者の採用面接も、5年前から英語で行う徹底ぶりで、
8年前の5%から一気に増えた。
終身雇用の定年制研究者を、昨年度は25人採用、うち15人が外国人。
ヴィヌさんは、物材機構が世界から優秀な若手を集めた
研究交流プログラム「若手国際研究拠点」の第1期生。
2003年から5年間、63か国945人の応募、27か国81人が選出。
2~3年の任期終了後、実績を認められて物材機構に採用された
ヴィヌさんらのほかに、海外の大学や研究機関に20人が巣立った。
国内の大学、企業に就職できた外国人は、2人だけ。
壁になったのは、日本語力。
採用に当たって、8割の企業が日本語力を重視し、
多くが業務に支障のないレベルまで求めている。
大学教員も、日本語授業のできることが必須。
外国人の留学生や研究者には、ハードルが高い。
「企業や大学にも興味があるが、日本語は難しい」とヴィヌさん。
ヴィヌさんの共同研究の相手も、インドや米国の大学が多い。
国内の大学などで学ぶ留学生は12万人超、最近10年で2・4倍増。
国は、20年までに30万人に増やす目標を掲げる。
優秀な外国人研究者や留学生を呼び込もうと、文部科学省は、
大学や研究機関の英語化を推進。
英語の授業だけで卒業できる大学・大学院は、5大学6学部、
57大学院101研究科に増えた(06年度)。
物材機構など世界トップレベル研究拠点に選ばれた5大学・機関は、
すべての日常業務を英語で行う。
少子化や理科離れが進む中、外国からの留学生らは、
科学技術を支える戦力としても期待。
経団連は今年2月、「企業の国際競争力強化に、留学生の積極的な
採用・活用が重要」との報告書をまとめた。
学生の7割が、日本企業に就職を希望する一方、
実際に就職するのは3割以下に過ぎない。
英語化が、留学生らの社会進出を阻み、
大学・研究機関を「出島」化させている一面も。
東京大で留学生の定着促進を研究する洪政国教授は、
「国内で就職して活躍するには、日本語が上手でないと難しいのが現実」
海外の大学事情に詳しい東大の菅裕明教授は、
「外国人が社会で活躍することが、真の国際化。
英語化よりも日本語をしっかり教え、『日本でチャンスが開ける』と訴える方が、
優秀な人材も集まる可能性が高い」
日本語教育を充実させて、産業界で活躍できる留学生を育てる試みも。
「もの作りの現場は、工夫がいっぱいですごい」
名古屋工業大大学院修士2年のグエン・クィ・クィンさん(25)。
同大が、中小企業の中堅社員向けに開く「工場長養成塾」に参加。
40~50歳代の社会人と一緒に、豊田自動織機嘱託の川口勉さん(64)の
指導で、地元企業の製造現場を巡りながら、整理、整頓を徹底して
問題点を浮き彫りにするトヨタ式の「カイゼン」を学ぶ。
クィンさんはハノイ工科大卒業後、来日して2年だが、
日本語で積極的に質問し、リポートもこなす。
「日本の自動車産業で働きたい」と、夢を膨らませる。
川口さんは、「非常に熱心で吸収も早い。
もの作りを支える品質管理の神髄を伝えたい」
クィンさんは、経済産業省と文部科学省が始めた研修プログラム
「アジア人財資金」の第2期生。
特に日本語に力を入れ、自己紹介や報告書の書き方など
実践的な日本語を修士課程の2年間、徹底して鍛える。
受け入れ先の全国21大学・9地域は、それぞれの特徴を生かして
専門教育を行い、就職を支援する。
名工大は、トヨタ自動車やデンソーなど自動車産業と連携。
夏休みに企業実習を体験させ、一線の技術者に現場のノウハウを講義。
名工大の1期生4人は今春、自動車関連企業に全員就職。
経済危機の影響もあり、1220人の1期生全体では、就職率は約7割。
経産省産業人材政策室の新川達也室長は、
「留学生が国内で就職して活躍できる仕組みを作り、
優秀な人材が集まる好循環を生み出したい」
http://www.yomiuri.co.jp/science/tomorrow/tr20090412.htm
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