(毎日 4月25日)
米独の研究チームが、遺伝子やウイルスを使わない
人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作成方法を発表。
06年マウスiPS細胞の発表以来、
「遺伝子、ウイルスなし」は世界中の研究者が挑んだハードル。
今回初めて成功したが、作られたiPS細胞の性質など不明な点は残り、
激しい研究競争は今後も続く。
日本発のiPS細胞研究。
世界での競争に臨むには、人材、資金の確保はもちろん、
既存の技術をうまく組み合わせる「コーディネート能力」など
科学技術に関する国家の総合力が問われる。
◆遺伝子なしの理由
山中伸弥・京都大教授は、がん遺伝子を含む4つの遺伝子を、
レトロウイルスを「運び役」として使って体細胞に入れ、iPS細胞を作った。
レトロウイルスは、細胞の核に入り、導入遺伝子を染色体に
ランダムに組み込む。
染色体の重要な部位が破壊されたり、組み込み後に機能が
止まっているはずのがん遺伝子が回復すると、
iPS細胞ががんになる可能性がある。
その恐れを排除するため、レトロウイルスなし、遺伝子なしの
作成方法が求められてきた。
山中教授も、がん遺伝子を抜いた3遺伝子での作成方法などを発表。
一部の遺伝子の代わりに、低分子化合物を使う方法などが報告。
◆米独に日本の技術
新手法を発表した米スクリプス研究所のシェン・ディン准教授は、
化合物での作成で第一人者。
共同研究者の独マックスプランク分子医薬研究所、ハンス・シェラー教授は、
1遺伝子での作成に成功。
米独のトップクラスの研究者のタッグで、成果を挙げた。
たんぱく質をマウスの細胞に入れる際に使った方法は、
熊本大の富澤一仁教授のオリジナル。
日本発の技術が新手法の根幹。
今回、iPS細胞が従来手法のものと同レベルの分化能力を持つか、
安全性は高まったのかなどが、はっきり示されていない。
ヒトの細胞でも、同じように成功するか不明。
富澤教授は、「iPS細胞が抱える危険性克服につながる一歩だが、
実用化にはさらに研究が必要」
◆オバマ政権積極支援
自民党の会合で、山中教授は「資金、人材両面で危機的状況」と訴えた。
国は、昨年度から5年間で100億円の研究資金を用意。
山中教授が客員教授を務める米の研究所は、
1カ所で年間60億円の予算。
実験を補佐する研究支援者に博士号を持つ優秀な人材も多く、
バイオに特化した知的財産、法務、広報などの専門家の層も厚い。
iPS細胞関連論文のうち、日本発は約1割に過ぎない。
今回の論文に関しても、富澤教授の技術を、
日本でより早く生かせなかったのかという指摘。
山中教授は、「幹細胞研究の支援に積極的なオバマ政権によって、
米は独走状態に入りかねない」と、多面的な支援を求めた。
日本でも工学、農学など異分野の人材がiPS細胞研究へ参入し始めている。
研究の加速と共に、研究資源を効率よく生かす戦略づくりが求められる。
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◆iPS細胞作成に関する研究の進展(時期は発表時)
2006年8月
山中・京都大教授らがマウスの体細胞に、4遺伝子をレトロウイルスで導入、
世界初のiPS細胞を作成
07年11月
山中教授らと米ウィスコンシン大が、レトロウイルスと4遺伝子で
ヒトiPS細胞を作成
山中教授らがヒト体細胞で、がん遺伝子を除く3遺伝子とレトロウイルスで成功
08年5月
米スクリプス研究所など、マウス体細胞で2遺伝子と低分子化合物で成功
9月
米ハーバード大、マウス体細胞でアデノウイルスと4遺伝子で成功
10月
山中教授らが、胎児マウス体細胞で、環状DNA「プラスミド」で
4遺伝子を導入し成功
09年2月
独マックスプランク研が、マウス神経幹細胞で、
レトロウイルスで1遺伝子を導入し成功
3月
英とカナダのチームが、ヒト胎児体細胞で遺伝子「トランスポゾン」で
4遺伝子を導入し成功
4月
米スクリプス研など、胎児マウス細胞で遺伝子ゼロ、ウイルス未使用で成功
http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/04/25/20090425ddm002040070000c.html
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