2009年5月8日金曜日

理系白書’09:挑戦のとき/9 PDエアロスペース社長・緒川修治さん

(毎日 5月5日)

東海道の宿場町の風情が残る名古屋市の住宅街に、
緒川修治さんの「夢の工場」がある。
実家敷地内の10畳のプレハブがオフィス。
隣接する工房には、手作りの燃焼実験室も備える。

宇宙空間(高度100キロ)まで、低コストで往復できる有人宇宙機を、
民間で開発することが目標。
膨大なコストがかかるロケットに代わる輸送手段を実現する技術に、
「パルスデトネーションエンジン」(PDE)を選んだ。

金属筒に燃料と空気を入れて点火すると、爆発的に燃える。
爆発で低圧になった燃焼室に、外部から新たに燃料と空気を供給し爆発。
この繰り返しで推進力を生む仕組みが、PDE。
単純で故障のリスクが少ない。

緒川さんはこのPDEに、ジェットエンジンとロケットエンジンの
両方の機能を盛り込む計画。

子ども時代の目標はパイロット。
何度も受けた試験は不合格。
航空機を作る仕事に目標を切り替えた。
34歳の時、米国で民間による有人宇宙機コンテスト「Xプライズ」が開かれ、
わずか数十人の企業が宇宙機開発を成功。
「日本でもやってやれないことはない」と07年、起業。

ゴールは、「14年のクリスマスまでに、有人宇宙機を完成させる」
酸素がなくなる高度15キロ以上は、自前の酸化剤から酸素を供給。
製造コスト、運用コスト、信頼性のすべてで、既存エンジンを超える
この「切り替え法」を特許申請。

欠点は、燃焼が安定しないこと。
緒川さんは、PDEのベースとなる「パルスジェットエンジン」を自作。
1・6メートルのデモ機に搭載したテストは昨年、3度試みた。
1回目は離陸できず失敗。
2回目は離陸したが、エンジンが作動不良を起こした。
3回目は1分間飛んで無事着陸できた。
「ほっとした。ただこんなものはおもちゃ」と表情を引き締める。

夢をかなえるための資金を、90億円と見積もった。
政府の助成金を申請し、スポンサー探しに奔走。
不景気は逆境だが、「本当に好きなことならがんばれる。
『無理』と言う前に、やることがたくさんある」

筑波大、九州工大、名古屋大など7者による共同開発のめどもたった。
町工場の社長が、部品を無料で作ってくれた。
生涯のうちに、欧州旅行並みの39万8000円で宇宙旅行を実現したい。
現在、米企業が提供する宇宙旅行は2000万円。
「家族で行って、子どもに宇宙から地球を見せてほしいから」
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◇おがわ・しゅうじ

名古屋市生まれ。福井大工学部卒。
三菱重工業で次期支援戦闘機開発に4年間かかわった後、
01年、東北大大学院で修士号取得。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/05/05/20090505ddm016040137000c.html

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