(読売 11月3日)
「命をいただく」ことを知る試みも、行われている。
床を踏みしめて立っていた肉牛が、頭を「と畜銃」で撃たれ、
ごろっと横になって転がってきた。
白い作業着に身を包んだ職員が、ナイフでノドを切り裂き、
血抜きのためにつり下げる。
頭を切り落とし、皮をはぎ、おなかを裂くと、
白い胃などの内臓が摘出される。
「おー、出てきた」
下の階で行われる作業の光景を、
ガラス窓越しに食い入るように見つめる子どもたち。
三重県松阪市の県などが出資する松阪食肉公社と、
隣接する県松阪食肉衛生検査所を、
同市立天白小学校6年生児童38人が訪れ、牛の解体を見学。
「銃から5センチの棒が出て、脳を挫滅したから、
牛はもう意識がなくて痛くないの。
次は、いかに早く血を抜くかが大切。
こうした作業を一つ一つきっちりしないと、いいお肉にならない。
せっかく牛からもらった命を食べるために、
みんな一生懸命に作業しています」
同検査所主任検査員で獣医師の山本友美さん(42)が説明。
牛や豚をおいしくて安全な食肉にする現場を見てもらおうと、
両施設ではここ数年、学校の見学を積極的に受け入れている。
同小が見学を始めたのは、4年前。
「給食で松阪牛を食べたい」という子どもたちのリクエストから、
地元食材について考えるうち、両施設の見学に行き着いた。
草分京子教諭(50)は、「食べることは、動植物の命をいただくこと、
いろんな人に支えられていることを学ぶ絶好の機会」
事前に、検査所職員や生産者の話を聞くなど、基礎知識を学習。
当日、関係者が動物に対するそれぞれの思いを伝えるために
建てた獣魂碑にお参りした後、検査所で自分の心音を聴いたり、
牛の胃液に含まれる微生物を顕微鏡で見たりした。
「血がたくさん出たのはびっくり。作業が素早くてすごいと感じた」と
小谷直也君(12)。
最初は少し驚いた様子だった伊藤玲実さん(12)は、
「お肉を食べるため、お仕事してきれいにしてもらってるんだ。
感謝しないと」
草分教諭は、「子どもたちが見違えるように優しくなるんですよ」
独自の一貫教育を展開する自由学園男子部では長年、
構内で豚を飼育して業者に売り、その一部を給食で食べている。
どういう過程を経て、食材ができてくるのかを知り、
子豚を買い、大きく育てて売ることで経済観念を養うのが目的。
ペットとは一線を画し、名前はつけない。
掃除などの世話は、主に中学1年生が交代で行う。
豚にエサをあげていた小林未来野君(12)は、
「命を途中で断ちきり、食べるのは少しかわいそう。
最近結構かわいい」とやや複雑な表情だが、
山縣基教諭(34)は、「机上の勉強だけでなく、
実際の働きで苦労を経験し、工夫する心を養ってほしい」
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20091103-OYT8T00311.htm
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