2009年11月8日日曜日

動物と生きる(5)食べる 命いただくこと

(読売 11月3日)

「命をいただく」ことを知る試みも、行われている。

床を踏みしめて立っていた肉牛が、頭を「と畜銃」で撃たれ、
ごろっと横になって転がってきた。
白い作業着に身を包んだ職員が、ナイフでノドを切り裂き、
血抜きのためにつり下げる。
頭を切り落とし、皮をはぎ、おなかを裂くと、
白い胃などの内臓が摘出される。
「おー、出てきた」
下の階で行われる作業の光景を、
ガラス窓越しに食い入るように見つめる子どもたち。

三重県松阪市の県などが出資する松阪食肉公社と、
隣接する県松阪食肉衛生検査所を、
同市立天白小学校6年生児童38人が訪れ、牛の解体を見学。

「銃から5センチの棒が出て、脳を挫滅したから、
牛はもう意識がなくて痛くないの。
次は、いかに早く血を抜くかが大切。
こうした作業を一つ一つきっちりしないと、いいお肉にならない。
せっかく牛からもらった命を食べるために、
みんな一生懸命に作業しています」

同検査所主任検査員で獣医師の山本友美さん(42)が説明。
牛や豚をおいしくて安全な食肉にする現場を見てもらおうと、
両施設ではここ数年、学校の見学を積極的に受け入れている。

同小が見学を始めたのは、4年前。
「給食で松阪牛を食べたい」という子どもたちのリクエストから、
地元食材について考えるうち、両施設の見学に行き着いた。
草分京子教諭(50)は、「食べることは、動植物の命をいただくこと、
いろんな人に支えられていることを学ぶ絶好の機会

事前に、検査所職員や生産者の話を聞くなど、基礎知識を学習。
当日、関係者が動物に対するそれぞれの思いを伝えるために
建てた獣魂碑にお参りした後、検査所で自分の心音を聴いたり、
牛の胃液に含まれる微生物を顕微鏡で見たりした。

「血がたくさん出たのはびっくり。作業が素早くてすごいと感じた」と
小谷直也君(12)。
最初は少し驚いた様子だった伊藤玲実さん(12)は、
「お肉を食べるため、お仕事してきれいにしてもらってるんだ。
感謝しないと」
草分教諭は、「子どもたちが見違えるように優しくなるんですよ」

独自の一貫教育を展開する自由学園男子部では長年、
構内で豚を飼育して業者に売り、その一部を給食で食べている。
どういう過程を経て、食材ができてくるのかを知り、
子豚を買い、大きく育てて売ることで経済観念を養うのが目的。

ペットとは一線を画し、名前はつけない。
掃除などの世話は、主に中学1年生が交代で行う。
豚にエサをあげていた小林未来野君(12)は、
「命を途中で断ちきり、食べるのは少しかわいそう。
最近結構かわいい」とやや複雑な表情だが、
山縣基教諭(34)は、「机上の勉強だけでなく、
実際の働きで苦労を経験し、工夫する心を養ってほしい」

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20091103-OYT8T00311.htm

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