(日経 2009-11-05)
インターネットの世界で大きな変化を起こしている
「クラウドコンピューティング」。
膨大な情報処理能力を持つデータセンターと
通信ネットワークが融合し、これまでの技術やサービスを、
安く早く導入、大きな技術革新を促している。
その背後で進んでいるのが、IT業界の再編。
各社はM&Aや提携で、新しい価値を創造しようと躍起だが、
成功への道のりは平たんではない。
米サンフランシスコのモスコーニ・コンベンション・センターで
開幕した「オラクル・オープン・ワールド2009」。
オラクルに買収される米サン・マイクロシステムズの
スコット・マクネリ最高経営責任者(CEO)は、
基調講演に、オラクルの企業カラー、赤い服で登場。
オラクル傘下入り後、より一層の投資を得て、
「サンは、成長を続けることができる」
オラクルのラリー・エリソンCEOは、
「サンの協力で、ソフトとハード両方を持ち、“巨人”に対抗できる」
と、米IBMへの対決姿勢を改めて鮮明。
オラクルは、データベース・ソフトのトップ企業。
サンのサーバーと組み合わせ、総合的な企業向け情報システムへ。
エリソンCEOは、サン買収により「ソフト会社」から脱皮し、
ハードからソフトまで抱えるIT業界の巨人、IBMに戦いを挑む。
オラクルの新戦略に、クラウドの普及が少なからず影響。
クラウドが、世界のITシーンを大きく変えている。
その変化は、大きく分けて3つ。
第1は、基本ソフト(OS)ウィンドウズを武器に、
圧倒的な力を持っていた米マイクロソフト(MS)の弱体化。
データセンターで集中処理するクラウドは、
端末側の機能低下を促す。
端末の「部品」だったOSも、重要性が薄れた。
米グーグルなど、無料のOSなどの攻勢も活発化。
「MSに、かつての影響力はない」とITアナリスト。
OSをウィンドウズに固定することを前提に、アプリケーションソフトを
提供した、これまでのビジネスモデルは行き詰まる。
IT各社は、MSのくびきから解放され、
新しい競争環境に身を置くことを強いられる。
第2は、利益水準の低下。
クラウドの特徴の1つは、データセンターなどのIT資産の効率利用。
サーバー市場が伸び悩むなど、IT市場は頭打ち。
金融危機による景気の低迷で、IT各社の業績は大きく落ち込んだ。
IT各分野のトップ企業は、すでに高シェアに達している。
シェア拡大の余地はわずかで、今後の成長シナリオを描きにくい。
第3は、関連する業態の急激な変化。
電子書籍端末「キンドル」の世界展開を発表した
米アマゾン・ドット・コムは、ネット通販書店が原点。
これを核に、世界最大のネット小売企業に成長。
キンドルで、コンテンツ(情報の内容)のデジタル配信を本格化させ、
注文からデリバリーまで、すべて「電子」で完結する体制を築いた。
データセンターの巨大な能力を安価に使えるクラウドは、
さらに業態の変化を加速。
その動きに乗り遅れないよう、各社は焦って走り出している。
オラクルでは、主力のデータベース分野でライバルの1つ、
MSの弱体化は、攻勢をかける好機。
データベース・ソフト市場は寡占化が進み、
トップ企業のオラクルが急にシェアを引き上げるのは難しい。
市場が縮小する中、価格競争なども仕掛けにくい。
そこで、新しい事業モデルの構築。
新モデルを模索する過程で、オラクルは米アップルを参考。
同社の携帯電話機「iPhone(アイフォーン)」は、
ソフトとハードを「一貫して開発することが成功の要因」。
クラウドで、より高度なサービスや技術が可能になれば、
両者の一体提供の必要性が増す。
総合的なサービスと機器の提供の方が、他社の追随を受けにくく、
利益を確保しやすい。
IBMという「前例」があることも、一定の説得力を持つ。
パソコン大手のコンパックを買収するなど、
ハード拡大路線を突き進んできた米ヒューレット・パッカード(HP)は、
システムコンサルティングなどを中心に、ITサービス世界2位の
エレクトロニック・データ・システムズ(EDS)を買収。
「顧客は、統合されたシステムを求めている」(マーク・ハードCEO)、
ハードとソフトの融合路線にカジを切った。
外部記憶装置(ストレージ)最大手のEMCは、
暗号ソフトなどの米RSAセキュリティーを買収。
「必要な時に、必要なだけ、必要なサービスが欲しい、
というのが顧客の要望。
クラウド時代、多くの技術やサービスが可能になるが、
どれがIT企業のあるべき姿かまだ分からない」。
アップルが1つの成功例だが、ハードとソフトをそろえれば、
必ずいいサービスが生まれるわけではない。
各分野の巨人たちが悩み、新しい事業モデルを模索。
IT業界の合従連衡は、5~10年は続く。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ittrend/itt091104.html
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