2009年11月11日水曜日

強い感染力に注意 新型インフルエンザに備えるシンポジウム(その1)

(2009年10月31日 毎日新聞社)

シンポジウム「私たちのくらしをまもる、その方法とは」

◆基調講演「他人にうつさない心構えを」
 大槻公一・京都産業大鳥インフルエンザ研究センター長

インフルエンザウイルス(A型)は、外側にHA、NAという
とげ状物質が多数ある構造。
HAは16種類、今回の新型インフルエンザはH1というタイプ。
鳥インフルエンザウイルスはH5。
HAは、ウイルス感染の窓口となり、細胞にとりつく時に重要。
NAは、細胞内でできた子孫のウイルスが細胞から分かれる時に必要。
タミフルやリレンザは、NAの働きを阻害。

インフルエンザウイルス起源は、鳥インフルエンザウイルス。
鳥インフルエンザウイルスとカモなどの水鳥は共存関係で、感染しても
病気にならないが、ニワトリは人と同じように“被害者”に。
ニワトリからニワトリへ感染する間に、強毒に変わる。
代表例が、H5N1。

厚生労働省は、新型インフルエンザは鳥由来のH5N1と想定、
プレパンデミックワクチンを3000万人分備蓄、行動計画も。
私は、豚経由のウイルスが新型になって流行する可能性が高い。
H5N1の人での流行を否定はしないが、他の可能性も考えねば。

豚は、鳥と人の両方のインフルエンザウイルスに感染。
人ののどと鳥の呼吸器では、ウイルスの受容体が1カ所違う。
この違いで、鳥インフルエンザは人に感染しにくい。
豚は、両方の受容体を持ち、人と鳥のウイルスに感染。
同時感染すれば、豚の体内で新型ウイルスができる。

20世紀に出現した3種の新型ウイルス
(1918年スペインかぜ、57年アジアかぜ、68年香港かぜ)は、
豚の体内で作られ、人に感染してパンデミック(世界的大流行)に。
アジアかぜは、H1N1と別の鳥インフルエンザウイルスのH2N2が、
豚の体内で混じって生まれた新型ウイルス。

東南アジアでは、養豚が盛ん。
アヒルを飼っていて、新型インフルエンザが発生する背景はある。
今回は、予想外の北米で発生。
米国からの航空機を対象にした対策をしていたが、
フィリピンやタイから戻った人で罹患する人が増えた。
どちらの国も、米国と往来が頻繁で、感染者が多数出た。
日本は厳重な検疫を敷いたが、フィリピンやタイはできなかった。

今後の心配は、東南アジアが感染の震源地になること。
新型ウイルスは、元をたどると4種類のウイルスに行き着く。
HAは、90年前と同じ古典的な豚ウイルス。
NAは、76年に鳥から豚に侵入した新しい豚ウイルス。
いろんな種類の遺伝子が含まれ、世界の研究者らが競って
病原性に関係する遺伝子を解明。

最も強調したいのは、人に対し、季節性ウイルスよりも
はるかに強い病原性を持つ点。
春に大騒ぎしたことは間違いではない。
今後の心構えのため、季節性より感染力もはるかに強い。

季節性インフルエンザの大流行は、真冬に起きる。
気温が下がると、人の免疫機能は弱まり、空気が乾燥すると、
口の中の粘膜が露出、ウイルスに感染しやすくなる。
春になると、気温も上がり、人の抵抗力も強く、感染しにくくなる。

今年は、新型インフルエンザ流行がピークのまま、
従来のインフルエンザ流行期を迎える。
今年の冬、その次の冬は、相当大きな人的被害を起こすかも。

今のうちに、新型の封じ込めを図ることが重要。
特効薬はなく、感染したら、他人にうつさないこと。
私は、マスクが重要だと考えている。
マスクをすることで、衛生の認識も高まる。
みんなで行動すれば、それほど広がらずに済ませられる。
できるだけ早く手を打ち、人に感染させない心構えが重要。

◆パネル討論から

大槻教授 関西での流行時、風評被害の対応に苦労されたが、
そのための方策ではどういうことが考えられるか?

大下氏 正確迅速に情報を伝えること。
行政が、当初から「大騒ぎするものではない」と伝えておけば。

大槻教授 大阪府医師会では、医院によってタミフルや
簡易検査キットが足りなかったが、現状は?

酒井氏 薬はほぼ足りている。
検査キットは集団発生の可能性もあり、
100人分が1週間でなくなることも。
今は、検査キットが若干厳しい。

大槻教授 JOHNANは、企業として熱心に取り組んでいる。
一時見舞金制度は、無理をさせず、感染拡大を防ぐということで
非常に有効な対策。
関連企業や近隣との対策だが、業界には広がっているか?

山本氏 そういう機運が徐々に出てきている。
「新型インフルエンザ」プラス「地震防災」、で進めている。
インフルエンザだけだと連携できないが、
地震対策と一緒ならやっていける。

榊原 ワクチン接種に、効果や副作用はどのくらいあるか?
アレルギーのある人は、どの程度大丈夫なのか?

酒井氏 季節性インフルエンザワクチンでは、重大な副作用は
数十万分の1の確率で起きる。
新型用ワクチンも、作り方は同様で、副作用も同じくらい。
ワクチンは、かなりの割合で感染を防げ、重症にならずに済み、
副作用がちょっとでも出たら許さん、とは考えないで。
卵アレルギーは、専門家は心配はいらないが、
強烈なアレルギーのある人はやめた方がいい。

大槻教授 国産ワクチンは、卵から抗原を作っている。
輸入ワクチンは卵ではなく、培養細胞を使っている。
両ワクチンでは、違う性質の副作用が出るかも。
国内産か輸入物かは、認識して接種を受けた方がいい。

榊原 タミフルなど抗ウイルス薬はどの程度有効か?

大槻教授 現在のところ、タミフルが効くことで間違いない。
重症化を防ぐことが重要。
できるだけ早く医療機関を受診し、タミフルで治療してもらうこと。
薬の有効性を保つため、医療機関で処方された通りに使うこと。
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◇新型インフルエンザ

動物のインフルエンザウイルスが人に感染し、
体内で増殖できるように変化した後、人から人へ効率よく
感染するようになった新しいウイルスによって発症。
季節性インフルエンザと違い、人類のほとんどが
免疫を持たないため感染しやすく、大流行につながる恐れ。
鳥インフルエンザが変異した場合、強毒型になると想定したが、
今回の豚インフルエンザウイルス由来の新型は弱毒。

ウイルスの大きさは、直径が1万分の1ミリメートル。
中心にRNAという遺伝子があり、表面にHA(ヘマグルチニン)、
NA(ノイラミニダーゼ)と呼ばれる二つのたんぱく質の突起がある。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2009/11/2/110286/

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