2009年11月14日土曜日

挑戦のとき/17 東北大サイクロトロン核医学研究部・田代学さん

(毎日 11月3日)

◇心身の動きを画像に--
東北大サイクロトロン核医学研究部准教授・田代学さん(42)

がん検診の予約時間に間に合うよう、あわてて走って来た人を
陽電子断層撮影装置(PET)で写したら、
全身ががんのように光って写ってしまった。

普通なら単なる失敗談だが、田代さんは「これは使える」と直感。
運動により、全身の筋肉や脳のどの部分が活発に動くかを、
PETで調べる新しい研究分野を、90年代から開拓、
独創的として注目。

PETを使った測定法はまず、微量の放射線を出す薬剤を注射。
活動の活発な細胞には、多くの薬剤が取り込まれ、
そこから出る放射線を検出して体内分布図を作る。
注射後に普通に運動し、運動中活発だった部分を
後で測定することが可能。

この方法により、ランニング中、脳の中で最も活発に
動いているのは、筋肉などの運動をつかさどる部分ではなく、
視覚を扱う後頭部と、感覚情報を統合する頭頂部だと分かった。
認知症では、逆に活動量が減る部分。

従来は、脳波計など多数の電線を付け、
動くベルトの上を走る測定方法しかなく、
これでは景色が変わらない。
「本当のランニング中の脳は、実は見えていなかった」

ランニングと自転車では、鍛えられる筋肉がまったく異なること、
ゴルフのうまい人と初心者は使う筋肉が違うことも、
くっきりと浮かび上がった。

応用範囲は極めて広い。
不安や抑うつが強いがん患者ほど、意思や思考をつかさどる
脳の前頭葉などの活動が低下していることを解明。
「心のケアに生かしたい」

市販のかぜ薬や花粉症治療薬を飲んで車を運転すると、
通常なら活発になるはずの脳の視覚野の活動が大きく低下し、
眠気がなくても蛇行運転が増えるという危険性も。
認知症患者の脳に蓄積する異常なたんぱく質を調べ、
早期診断や予防、将来の発症予測の研究にも手を広げている。

小学生のころ、「大の観察好き」で、食虫植物の葉が閉じる
速さを測ったり、あおむけにされたコメツキムシが
元の姿勢に戻るため跳びはねる方向が、
「図鑑の絵は、本物と逆だ」と出版社に手紙を送ったことも。

研究者だった友人の親の影響で、医学部へ進学し、
心を含む人の全体像が見たいと、
心療内科や代替医療まで手当たり次第に学んだ。
登場したてのPETを、大学5年の授業で知り、
新しい視野を開く道具に心が躍った。

PETは、国内約200施設でがんの早期発見などに使われている。
健康な人の測定は放射線被ばくの課題もあるが、
「普段の生活のままの身体や脳、心の動きを詳細に調べ、
医療に生かしたい」
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◇たしろ・まなぶ

長野県松本市出身。信州大医学部卒業。
独留学を経て東北大大学院修了。07年から現職。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20091103ddm016040121000c.html

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