2009年12月29日火曜日

環境ビジネス:市場をつかめ 欧州各国の戦略

(毎日 12月17日)

地球温暖化対策を話し合うため、コペンハーゲンで開かれている
国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)の
ホスト国・デンマークや英国、オランダは、
環境対策に熱心に取り組んでいる。
背景には、再生可能エネルギー関連産業の育成など、
ビジネスチャンスを生かす、したたかな狙いも。
環境先進国の実情を報告。

◇20年に34%削減 洋上風力発電に強み--英国

英国は、EUの目標を上回る野心的な目標を掲げる。
温室効果ガスを、20年までに90年比で34%削減(EUは20~30%)、
電力供給に占める再生可能エネルギーの割合を
30%(同20%)にまで高める計画。

主役は、08年にデンマークを抜き発電量世界一になった
洋上風力発電。
既に150万軒の家庭に電力を供給する能力
(発電容量3ギガワット)があるが、20年には25ギガワットに。

中心は、英北部スコットランド。
日本と違い、沿岸部は遠浅の海岸が多く、洋上風力発電所の設置が
容易な上、沿岸12カイリまでは王室所有のため、
漁業権も含め権利調整などの問題がないのが利点。

自治政府のジム・マーサー環境相は、
「欧州の洋上風力資源、潮力発電資源の25%がスコットランド」
北海油田で培った洋上開発技術を転用するほか、
油田の跡地にCO2を貯留する施設を建設する計画も進め、
「欧州の低炭素社会の中心」(環境相)を自負。

英国が熱心に取り組むのは、
(1)エネルギー安全保障上の対策、
(2)環境産業育成--などが背景。

英王立国際問題研究所のエネルギー問題専門家、
ウィリアム・ブリス氏は、「06年、ロシアがウクライナ向けの
天然ガス供給を停止したのを機に、
エネルギー安保の議論が本格化」
北海油田の産出量は、ピーク時より4割以上落ち込み、
20年までにさらにその3分の1が減少。
不足分は、ロシア産天然ガスに依存する可能性が高く、
10年後には輸入量が75%上昇すると予測。

石炭火力発電所、原子力発電所の老朽化問題も重なる。
原発は、電力供給で約2割を占めるが、
20年には6%にまで落ち込む見込み、
代替エネルギーの早急な手当てが必要という側面。

産業界は、商機到来と受け止めている。
英機械技師協会で気候変動問題を担当する
ティム・フォックス博士は、「他国に先駆けて技術を開発すれば、
世界中の市場を獲得できる」
ブラウン首相は、気候変動は「第4の産業革命を起こす機会」
環境関連の市場規模は、50年には現在の60倍以上の270兆円、
2500万人の雇用を生み出す一大産業になると意欲的。

◇「脱石油」で成果 関連産業の輸出増狙う--デンマーク

デンマーク・エネルギー庁のアンネ・シモンセン次長は、
「デンマークは、経済成長とエネルギー効率化を共に実現」
80年を起点にすると、デンマークの国内総生産(GDP)は
7割上昇、エネルギー消費量はほぼ横ばい。

デンマークは、80年代に北海油田・ガス田の生産が始まり、
現在はエネルギー自給率が130%、石油、天然ガスなどを輸出。
第1次石油危機当時は、エネルギーの99%を輸入に依存。
日本と同様、石油価格急騰が経済に与えた影響は大きく、
これを機に大胆にエネルギー政策を転換。

シモンセン次長は、「石炭などの化石燃料からの脱却と、
巨大発電所中心の電力供給態勢を地域密着の分散型発電に転換
風力発電所やバイオマス発電所を、全土にきめ細かく整備し、
火力発電で発生した蒸気を地域暖房にも活用、
エネルギー効率を大幅に高めた。

再生可能エネルギーのエネルギー消費量に占める割合は、
80年は3%、07年には17%にまで上昇、
25年には少なくとも30%(EUの目標は20年までに20%)まで高める。

コペンハーゲン市は、25年までに「(CO2排出・吸収量が同じ)
カーボンニュートラル」達成を掲げる。
現在、石炭火力が主力の地域暖房をバイオマスに転換、
自転車専用道路を整備し自転車通学の割合を
現在の3分の1から2分の1に増やす。
電気、水素自動車は、駐車禁止対象外とする促進策を導入するなど、
50ものプログラムを進めている。

デンマークは、世界有数の風力発電メーカーのほか、
節電機器メーカーなどの関連産業が多い。
輸出に占める環境産業の割合は、90年の4%に対し、
現在は10%を超す成長産業、
COP15を機に商機拡大を狙う。

◇低地国家リードする新技術--オランダ

地球温暖化の世界的な影響が懸念される中、
国土の4分の1が海抜0メートル以下にある
低地国家オランダに、各国から熱い視線。
デルタ地帯を海面上昇から守る治水技術や、
河川増水時に船のように浮かんで難を逃れる
「フローティングハウス(浮かぶ家)」のアイデアなどが
専門家の関心を集めている。

アムステルダム南東約80キロの村マースボンメル。
マース川沿いに、淡いパステルカラーの住宅46棟が並ぶ。
外見は普通の家だが、特殊な水害対策が施されている。
14棟は川面に浮き、コンクリートの土台の上に乗る32棟は、
増水時に浮かぶ仕掛け。
5・2メートルの水位まで対応できる。
流されないよう土台とつながる大黒柱があり、
電気、水道、ガスはケーブルで「陸」から届く。

家の広さは185平方メートル。
不動産業のケース・ウェストダイクさん(54)は、別荘として購入。
「自然に囲まれた暮らしができ、水面上昇にも準備万端」
と余裕の表情。
近所の家には、29万5000ユーロ(約3800万円)の
値段が付いた「売り家」も。

建設したドゥラ・フェルメール社は、
水に浮かぶオフィス街や温室を開発中。
「中国とバングラデシュが関心を示している」
ヤン・ウィレム・ロール事業担当部長。

オランダでは、海面上昇や河川増水が深刻化した場合、
人口(約1650万人)の6割が暮らす地域が
洪水被害を受ける可能性。
1953年、大暴風雨に伴う高潮で、1800人以上が死亡する惨事。

商港を擁するロッテルダムは、デルタ都市。
53年の大洪水後、オランダ政府は河口部を堰で覆う治水工事
「デルタ計画」を進め、97年には高潮時に幅約360メートルの
河口を可動式の堰でふさぐ「マエスラント堰」が完成。

オランダ政府の諮問委員会は昨年、温暖化の影響で
「海水面の上昇が、2100年に65cm~1・3m、
2200年には2~4mに達する」との予測を発表。
政府は、「新デルタ計画」立案に着手。

共通課題を抱える国家間の協力も始まった。
「ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、エジプト、
モザンビークへの技術移転が検討」
独立組織「オランダ水パートナーシップ」の
イボ・デメルス事業開発戦略部長が明かす。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/12/17/20091217ddm007030107000c.html

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