(読売 12月15日)
子どもの疑問を受け止め、科学の心を育てている。
「イチゴも、種をまくとできるの?」
いわき市の市立藤原幼稚園で、イチゴの絵本を読んであげていた
初瀬玲子副園長は、4歳男児の問いに口ごもった。
男児が発熱し、職員室で一緒に保護者のお迎えを待っていた時。
果肉表面の粒々が種であることは知っていたが、
実際の栽培では株で増やすのが一般的。
実から取った種は育つのか?
「そうなんだねえ」とあいまいに答えてしまった直後、ハッとした。
園では、毎年入園してくる幼児たちの様子に危機感を持っていた。
パンを与えても、食べられないほど粉々にちぎってしまったり、
口を開けて待つだけだったりする姿が増えていた。
初瀬副園長らは、入園前の体験の少なさに原因があると考えた。
男児の質問に、「教師自身も、子どもの『なぜ』に真剣に向き合わず、
実体験をおろそかにしてきたのではないか」と、
猛烈な反省がわいてきた。
「種、まいてみようね」。
男児の一言をきっかけに、年中組でイチゴを種から育ててみる
という試みがスタート。
子どもたちの関心は、熟し切って黒く乾燥したイチゴから
種を取ることを知ると、「食べるための実」から
「種を取るための実」へと広がっていった。
最初に出た芽を大事に育てていたところ、
ほかの芽と葉の形を比べ、雑草だったと気付いたことも。
「種のとりこ」となった園児たちは、
「お弁当のミニトマト」や「家で食べたブドウ」などの種も観察し、
色や形、大きさの違いに驚く。
子どもの野菜嫌いがなくなったという効果も。
藤原幼稚園の園庭には、今では種から育てた花や果物、
野菜があふれ、園内には様々な種が展示。
「イチゴの種をまくとどうなるのか」。
子どもの疑問を、教師自身も同じ目線で楽しむことで、
「科学の心」を引き出したこの取り組みにより、
同園は、ソニー教育財団の幼児教育支援プログラムで、
2008年度の最優秀プロジェクト園に選ばれた。
聞き逃しがちな子どもの疑問に向き合う取り組みは、
その後も続いている。
ヒマワリを育てている年中組の男児の一人が、
「ヒマワリは、カボチャになるんだよ」とつぶやいた。
小野晴香教諭(25)が、年長組の園児に聞いたところ、
予想に反し「カボチャになる」との意見が多数派。
教師や保護者は答えを教えずに、なぜそう考えるのか
意見を発表させたり、カボチャがなる「予想図」を描かせたりして
謎解きを見守った。
夏休み明けの9月、3メートル30に育ったヒマワリを
全員で引き抜き、葉っぱや根っこまで隅々を夢中で調べた
子どもたちは、「ヒマワリはカボチャにならない」との結論に
自分たちでたどり着いた。
「教える内容が細かく決められている小学校と違い、
幼稚園では何でも学ぶことができます。面白いですよ」と、
初瀬副園長は笑顔を見せる。
身近な自然を使った効果的な指導が、
子どもたちの発達を促している。
◆メモ
家庭でも身近な種から育ててみると、親子で楽しみながら
「科学の心」を芽生えさせることができる。
藤原幼稚園のお薦めは、芽が出やすく、育てやすいアボカド、
ミカンなどかんきつ類全般、ビワ、スイカ。
植える前に、水でよく洗うといい。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20091215-OYT8T00235.htm
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