2010年1月29日金曜日

新興国に売れる工場の省エネ技術

(日経 2010-01-26)

CO2削減や省エネルギーの取り組みでは、
ハイブリッド車や電気自動車などの製品技術が目立つ。
製品を造るときのCO2排出量を極力削減する
「エコものづくり」も深く進行。
シャープが09年10月に公開した「シャープグリーンフロント堺」は、
まさにエコものづくりの象徴。

消費電力の少ない液晶パネルと太陽電池を製造し、
従来型の工場に比べ、約6万3500トン/年もの
CO2排出を削減したコンビナート。

グリーンフロント堺は、第10世代(2880×3130mm)の
液晶パネルと太陽電池の生産拠点。
約127万m2の敷地に、部材メーカーなど19社が集結、
「あたかも一つの工場であるかのように」(シャープ)振る舞う。
それぞれの工場で使用する純水や圧縮空気、窒素ガスなど、
共同のプラントで生産して配給、効率化を図った。

コンビナート内のエネルギーの使用状況は、
「統合エネルギー管理センター」が一元的に管理・調整。
エネルギー情報だけでなく、生産計画や生産実績といった、
生産そのものの情報も一元管理。

シャープは、グリーンフロント堺内の液晶パネル工場だけでも、
約4300億円もの費用を投じ、省エネ効果と生産性の向上で
十分に回収できる。

工場単位でも、エネルギーを集中管理することで、
CO2削減と省エネルギーを確実に推進する試みが増えている。
トヨタ自動車は、08年度、売上高当たりのCO2排出量(CO2原単位)
増加を、10%程度で食い止めた。

08年度後半、リーマン・ショックで生産量が大きく落ちた年度で、
工場のCO2排出量も総量は減ったが、CO2原単位は
大きな減産局面では急激に悪化するのが普通。
設備の維持などに必要なエネルギーの中に、
生産量と関係なく、一定量使わざるを得ないものがある。

トヨタ自動車は、既に構築を終えていたCO2排出量の
「見える化システム」を活用、エネルギー原単位が
なるべく悪化しないように調整しながら操業。

見える化システムは、国内12工場のエネルギ使用状況を
横並びで比較でき、一つの工場で使っている蒸気の圧力が、
他の工場よりも突出して高い、というようなことが分かる。

蒸気圧が本当に必要なのかを調査すると、蒸気の安定供給のため、
圧力を高めに設定していた、といった場合が。
エネルギーのムダを省いていった結果、見える化システム
構築当初の07年度、トヨタ自動車の原動力部門
(工場内の電力や蒸気などを供給する部門)は、
2万3000トンのCO2排出量削減と
5億900万円のコスト削減を実現。

以上の活動は、単にCO2排出量とエネルギー消費の低減を図る
だけでなく、新しい技術と経済性に裏打ちされていることが特徴。
日本国内に、このような技術が蓄積されていけば、
新興国などに売り込むことも可能。

実際、日本の排煙脱硫装置は火力発電所の環境対策として、
世界中に設置。
新日本製鉄グループの新日鉄エンジニアリングが、
中国鉄鋼大手の馬鞍山鋼鉄に、コークス炉の廃熱を利用して、
石炭を脱水する技術を供与。

日本は、単位GDP当たりのエネルギー消費の少なさでは
おそらく世界一。
資源エネルギー庁が発行した「日本のエネルギー2009」に
転載されている国際エネルギー機関(IEA)の資料で、
06年における単位GDP当たりの1次エネルギー消費量は、
日本を1とすれば英国1.3、ドイツ1.7、フランス1.8、米国2.0、
タイ6.1、中国7.9といった状況。

さらに技術を加え、CO2削減と省エネを進めるのは大変だが、
世界各国でCO2排出枠の取引が本格化すれば、
CO2削減技術の価値も大幅に高まる。

エネルギーの集中管理といったトップダウン的な技術だけでなく、
個々の現場での省エネ技術も着実に進んでいる。
ホンダ埼玉製作所の塗装工程では、
09年2月に新型の循環水ポンプを導入。
このポンプは、IPM(磁石埋め込み式)モーターと呼ばれ、
モーターのロータ(回転部)でのエネルギー損失が少なく、
小型軽量化しやすいのが特徴。
同社が、ハイブリッド車「インサイト」に採用したのも
同じ方式のモーター。

それまで使っていた誘導モーターの効率は88%。
小型軽量のIPMモーターに交換するだけでも93%に向上、
ハイブリッド車と違って工場の生産設備だから、
モーターの外形を小さくする必要がない。
ステータ(固定部)のコイルの容積を拡大することを考え、
損失がさらに減り、「世界最高効率」(同社)の97.7%を達成。
「スーパーIPMモーター」は、循環水の流量を調節する
バルブの運用方法の工夫などと組み合わせ、
投資金額を約40カ月で回収できる見込み。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/mono/mon100125.html

0 件のコメント: