2010年5月2日日曜日

iPSの今〈1〉「初期化」遺伝子増やす?減らす?

(2010年4月26日 読売新聞)

神経や心筋など、様々な細胞に変化できる
人のiPS細胞(新型万能細胞)。
世界中が注目した、山中伸弥・京都大教授の作製発表から2年半。
今月、京大に国内初の専門研究機関「iPS細胞研究所」が発足。
「どうやって万能性を獲得したのか」、
「どんな遺伝子が働いているのか」など、未解明な部分も多いが、
激しい国際競争を経て、その姿が少しずつ見えてきた。

人の体は、約250種類の体細胞からできているが、
どれも元々は1個の受精卵から変化。
iPS細胞は、すでに皮膚などに変化している体細胞を、
時計の針を戻すように、様々な細胞に変化する前の受精卵に
近い状態に戻す「初期化」を、強制的に行って作った。
受精卵のように、いろんな細胞に変化できる。

では、どんな体細胞も初期化をして、iPS細胞を作れるのか?
山中教授が最初に用いたのは、皮膚。
変化前の比較的未熟な細胞がまじっていた可能性もあるため、
初期化しやすく、研究者の間では、
「他に、どんな細胞が使えるのか」に興味。

マウス実験などで肝臓や胃、骨髄、神経などで
iPS細胞ができるという報告が相次いだ。
研究競争の決定打となったのは、それ以上変化できない
終末分化と呼ばれる状態の成熟したBリンパ球の成功。
京大の長船健二准教授は、
「これで、どんな細胞からもiPS細胞が作れることが分かり、
生物学的な結論が出た」

材料として最適なものは、まだわかっていない。
iPS細胞は、がんになる恐れがあるうえ、
1個作るのに大量の細胞が必要で、効率の悪さも課題。
マウス実験では、胃の細胞を使えば、皮膚や肝臓より
がん化を大幅に抑えられる。
同じ皮膚でも、紫外線にさらされる頭皮と腹部の皮膚とでは、
遺伝子の傷や変異の程度が異なり、
作製効率や安全性に差が出るとも考えられている。

長船准教授は、「さい帯血は、遺伝子の変異や傷が
ほとんどないので適している」
「人での作製にも成功しているさい帯血や親知らずの歯の細胞など、
入手しやすい医療廃棄物を利用して、バンクを作るのが実用的」

簡単に採取できる髪の毛や血液から、iPS細胞ができたとの報告。
作製自体が困難なうえ、効率も極めて悪い。
1本の髪からできれば理想的だが、
今のところ現実的な選択肢ではなさそう。

山中教授は、「山中4因子」と呼ばれる4種類の遺伝子を、
レトロウイルスを運び役にし、体細胞に入れて初期化に成功。
がん遺伝子c-Mycを含むなど、安全面の問題も。

そこで、遺伝子の種類をいかに減らすか、研究が急速に進んだ。
昨年2月、独マックスプランク分子医薬研究所のグループが
Oct3/4という遺伝子だけで初期化に成功、
マウスのiPS細胞を作製。
米ハーバード大などのグループは、4因子のうち
1-2遺伝子の代わりにバルプロ酸などの化合物を用いて作製、
効率を高めることにも成功。

山中4因子は、もともと細胞内にあるので、
細胞によっては、四つのうちの幾つかが活発に働いているため、
その遺伝子を入れなくても初期化できるとみられていた。
理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの
丹羽仁史チームリーダーも、「多くの研究は、四つのうち、
いずれかの遺伝子がよく働いている細胞を用いている」

丹羽さんは、様々な組織の細胞になる胚性幹細胞(ES細胞)で、
変化する前の未分化な状態を保つ遺伝子や、
変化にかかわる遺伝子のネットワークの解明を進めてきた。

これまでの研究成果から、丹羽さんは、初期化には
10種類ほどの遺伝子が連動していると考えている。
山中4因子は、初期化を引き起こすぎりぎりの数で、
現在のiPS細胞の質や作製効率は不安定。
「むしろ入れる遺伝子の種類を多くすることで、
より確実に、高品質なものを作れるのではないか」と丹羽さんは分析。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/4/26/119486/

0 件のコメント: