2010年5月13日木曜日

『東京現代建築ガイド』 パフォーマンスとしての建築

(CNN 5月5日)

ロンドンやパリ、ローマなど世界の首都と比べ、
東京には、歴史的建築のみならず、
20世紀前半のアーリーモダンの建築がとても少ない。
その穴を埋め合わせているのが、
世界で最も独創的で印象的な現代建築家たちの作品。

新刊書、『東京現代建築ガイド』(21st Century Tokyo)は、
1990年以後に建てられた、東京の建築の傑作を紹介する
究極のガイド。
ジョシュア・リーバーマンの印象的なモノクロ写真は、
ガラスとスチール、コンクリートの構造物の魅力を
最大限に引き出し、現役建築家のジュリアン・ウォラルと、
建築学教授のエレズ・ゴラニ・ソロモンが、
それぞれの建物の来歴と意義を解説。

CNNは、著者のウォラルとゴラニにインタビュー、
東京独自の建築テーマと、低成長時代における
この都市の将来について詳しく聞いた。

●CNNGo:1990年以後の建物だけ取り上げているが、
なぜこの年を区切りとしたのか?

●ウォラル:理由はたくさんある。
1990年は、バブルが終焉し、日本経済の新しい低成長期、
日本の「ポストバブル」が始まった年(世界の先進国も似通った状況)。

●ゴラニ:最近、「世紀の転換」の意義を論じる研究がたくさんあるが、
世紀の変わり目をはさんだ前後10年間の建築についても同様。

●ウォラル:1990年、建築学の全体的な思想がポストモダニズムを離れ、
モダニストのアイディア再評価や、新たな角度からのアプローチが始まった。
1990年以後、首都のグローバル化が進展し、東京にも大きな影響。

●CNNGo:「低成長」時代というが、六本木ヒルズなど多くは巨大建築で、
強大な経済と政治力を象徴。

●ウォラル:それは、グローバル化と関係。
経済成長は沈滞だが、資金を集め、建築へ投入する流れが変わった。
国と民間セクターの関係も変化。
過去20年間の東京と、その建築をみれば明らか。
再開発の規模自体が巨大になった。
グローバル化が東京の再構築を後押し、六本木ヒルズだけでなく、
汐留(電通ビル)、丸の内、秋葉原、品川に巨大複合施設が誕生。

●CNNGo:(日本の現代)建築家たちは「古典的」、伝統的な
デザインには全く興味をもっていないように思える。
どの建物も、ガラスとコンクリートで出来ている。

●ウォラル:レンガは「古典的」、ガラスとコンクリートは「新しい」と、
建築資材が、特定の時代を連想させる。
日本では、明治時代はレンガ、昭和はコンクリート、平成はガラス。
最近の公共ビルや商業用ビルには、つややかで透明なガラスを
用いるのがほとんど定番。

●CNNGo:審美的な目的か、機能的目的か?

●ウォラル:審美的であると同時に、文化的な現象。
ガラスは、建造物の内部と外部の境界を曖昧にするという
意味で、文化的である。
内部の暴露は、現代文化の一般的な特徴。

フェースブックは、人々の生活の内部をさらけ出す。
ショップに用いれば、ガラスは商品を客の目にさらし、
魅惑的な効果を与える(表参道のプラダ、銀座のエルメス・ビルなど)
技術的進化で、ガラスの機能性が高まり、設計に耐えられる。

日本では今、過去を再評価する動き。
歴史の保存的な試みが、各地で行われている。
丸の内の一号館美術館は、約50年前に解体された
19世紀の建物を復元。
外壁のレンガは、当時と同じものを中国から輸入するこだわり。

●CNNGo:東京の建築に関し、よく聞かれる批判は、
「目新しい建築資材やデザインを追求した結果、
建物がすぐに陳腐化し、時代遅れになるのが非常に早い」
建築家たちは、こうした批判を意識しているか?

●ウォラル:東京のビルの寿命は、米国の半分、欧州の3分の1。
これは、建築家が新しいものを追い求めたせいではない。
新しい資材の追求は、寿命の短さの原因よりは、結果。
日本建築が短命な理由について、
地震や世代交代に伴う建て替え衝動、税金問題などの他、
仏教の「無常」観という文化的側面から説明する向きも。

●CNNGo:不景気が長引いても、六本木ヒルズのような建物は誕生するか?
自治体や企業に、ビルを立て替える資金的余裕はあるか?

●ウォラル:民主党政権が誕生し、日本では政府や民間の支出を
徹底的に洗い直す動きが活発化。
新しい橋梁やダム、地方の文化施設などの公共工事を請け負う
建設業界は、自民党政権を支える業界の1つ。
民主党政権下では、「持続可能」の旗印のもと、
建築やその他のものを、より長期的な視野で考える風潮。
最近はやりの言葉は、「リノベーション」。
「壊して建設する」のではなく、既存の建物を再利用する。

●ゴラニ:相続法のもたらす財務的負担が、変化を強いている。
子供は、親から受け継いだ家を維持できず、土地を半分売却し、
そこに新しい家を建て直すしかない。

●CNNGo:この本は、「基本的には消えつつある、
壮麗な東京の建築物の探求」ということか?

●ウォラル:本で扱った建物の一部には、将来、主流となる
可能性のある「傾向」も現れている。
新しいアイディアをもつ若い建築家はたくさんいるが、
本書で十分に紹介できなかった。
彼らは、主に個人の住宅の設計を請け負い、
個人情報の問題などから、掲載は実現しなかった。

●CNNGo:日本の現代の建築家に共通する特徴的なスタイルは?
彼らは互いに影響しあっているか?

●ウォラル:(そういったスタイルは)まったくない。
建築家たちが探求している、一連のテーマがある。
建築雑誌で取り上げられる作品の多くには、
どこか「日本らしさ」のようなものがある。
小さく、白く、浄化されたようにみえる作品がそうだ。
アプローチには、驚くほどの多様性がある。

建築家のアイディアの輸出こそ、日本の隠れた文化的な成功。
彼らの影響は、国内よりもむしろ海外へ向かっている。
今年のベネチア・ビエンナーレ国際建築展の企画責任者は、
日本の建築家、妹島和世(SANAA)。
建築業界で最も影響力あるイベントで、
日本人が責任者を務めるのは初めて(女性責任者も初めて)。

●ゴラニ:日本が、中国やインドなど勢いのある国々のそばで、
地位と存在感とを保つことができたのは、建築という存在。

●CNNGo:建築物の中で、1990年代半ばのものと、
2000年代半ばのものの違いはあるか?

●ウォラル:外面の重要性が増した。表参道はよい例。
ビルの多くは、2000年代に建てられ、基本的に外面がゴージャス。

●CNNGo:環境に、もっともよくとけ込んでいるのはどの建物か?

●ウォラル:槇文彦の手がけた代官山のヒルサイドテラスが、
環境に絶妙に対話しているモダン建築の好例。
個人的な好みでは、横浜港大さん橋国際客船ターミナル。
屋上にすばらしい公共スペースがあり、市にはなによりのプレゼント。

●ゴラニ:本書では、コンビニや高層マンションなど一般的な建物にも、
読者の注意が向くように工夫。
こうした建築は、周囲に見事にとけ込み、都市生活の背景として
それ自身で1つの環境をつくっている。

●CNNGo:実際に見ないと、本当に理解できないものは?

●ゴラニ:六本木ヒルズ。

●ウォラル:横浜港大さん橋国際客船ターミナル。
写真で、このビルを正当化することはできない。

●CNNGo:東京で最もクレージーな建物は?

●ウォラル:三鷹天命反転住宅はクレージーにみえるが、
人間のありように対しての深い理解から生まれた。
2億4000万ドルのシャネル銀座ビルは、建築学的によくできているが、
資源の配分という意味では全くクレージー。
ふじようちえんは、素晴らしい建物だが、非常にユニーク。
普通の幼稚園のほうがクレージーにみえる。

●CNNGo:現代の日本建築から、東京の外に住む人々や建築家は、
何を学ぶことができるか?

●ゴラニ:建築と東京の街の間に、相関性は存在しないと信じているが、
そういうわけではない。非常に特殊なものだ。

●ウォラル:西洋人は、建物は永久的なものだと考えている。
建築は、(死や税金のように)永続的だというイメージ。
日本は、建築をもっと柔軟かつ動的で、文化の変遷に
直接影響されるパフォーマンスとして考える風潮。
こうした考え方は、建築家の肩にかかる歴史的重圧を和らげ、
もっと実験的な試みを可能に。

日本の建築で本当に面白いと思うのは、
境界に対する微妙かつ繊細なアプローチ。
内部・外部の境界、公的・私的空間の境界、自己・世界の境界と、
境界は様々だが、進歩的な日本の建築家は、
基本的な領域が物理的空間の中で、どのようにつながり、
分離できるかを追求し、可能性を広げている。
東京が明日、地震で崩壊しても、日本の建築家が才能をフル活用し、
現在の建設資材と先端技術で街を再建するのなら、
東京は21世紀都市の真のモデルとなる。

http://www.cnn.co.jp/fringe/AIC201005050009.html

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