2010年5月14日金曜日

研究費配分における多様性確保とは

(サイエンスポータル 2010年5月4日)

日本化学会の岩澤康裕会長(電気通信大学教授)ら
26の学会会長が、科学技術政策について
強い危機感を表す共同声明を発表。

研究費配分が、一部の研究者・機関に集中している現状を、
科学の発展に欠かせない多様な研究の芽をつみ、
科学技術立国という日本の国策にとってもマイナスだ、と強く批判。

研究費配分について、今の第3期科学技術基本計画を策定した
総合科学技術会議議員(当時)の阿部博之・元東北大学総長も
現状を憂慮。

「大きい発明、発見は、意外なところから出てくることが多い。
後で画期的な成果を生む可能性がある研究は、山ほどあり、
そういう研究の多様性を大切にしていかないと、
白川英樹さんのような独自性のある研究成果も生まれない」

現状は、「旧帝大と東京工業大学といった大学に
予算が集中し、地方の大学に行かず、画一的になり過ぎている」

政府の行政刷新会議は、4月に行った事業仕分け第2弾の
科学技術振興機構に対する仕分け評価で、
批判の矛先を、機構外に向けた。
「総合科学技術会議が機能を果たしていない」というコメントをつけ、
科学技術政策を抜本的に見直す考え。

26学会会長の声明は、このような時期に出されたことから、
その提言は政府のこれからの検討にも影響を与える。
「GDP比1%以上の研究費確保」といった提言は、
既に川端文部科学相も言っている。

研究の多様性を確保するためにはどうすべきか、
具体的な数字も挙げて訴え、提言した方がよりインパクトは
強かったのではないだろうか。

「多様な研究費の確保は、科学・技術の発展に必須」は分かるが、
以下の記述では、多くの人にぴんと来ない。
「オールジャパンで取り組む必要がある課題の推進に必要な、
年間10~20億円の中規模設備や中規模研究費分類を
整備する必要がある。
大型施設は必要ではない、多数の研究者が長年にわたり行う
年間数10~100億円の大規模研究分類を設ける必要がある」

「Beyond Innovation『イノベーションの議論』を超えて」
(丸善プラネット)編著者、前田正史・東京大学理事・副学長の主張は、
「科学研究費補助金は、東大のまじめにやっている
自然科学系の教授だと年間300万円ぐらいもらえる。
1年休んで、次の年にまた 300万円もらえるか、
というのが今の状況。

これで、新しい先進的な研究ができるかといったら、
竹やりのレベルだが、3倍の1件、1,000万円程度になったら違う。
現在総額2,000億円の科学研究費補助金を、
3倍の6,000億円にするだけでも、大きな効果が期待できる

こちらの提言の方が、だいぶ分かりやすい。
科学研究費補助金を3倍に増やす必要がある、は、
科学技術振興機構の北澤宏一理事長も同意見。
科学研究費補助金は、同機構の所管外だが、
北澤氏は日本の研究支援体制を2段ロケット方式に例え、
それが大きな効果を挙げている、というのが持論。

科学研究費補助金が第1段に相当し、
科学技術振興機構が担当する戦略的創造研究推進事業が第2段。

北澤氏は、ロケット1段目に相当する科学研究費補助金を、
「優れた研究を産み出すための豊かな苗床」、
「一人あたり300~400万円の科学研究費補助金を
支給されているのは、研究者の25%にすぎない。
研究費をもらえない研究者がこんなに多いのは、
研究人材の活用という観点からもったいない話、
科学研究費補助金の総額を、3倍程度に強化する必要がある」

ロケット2段目の戦略的創造研究推進事業は、
科学研究費補助金を受けている研究者の中から、
産業シーズにつながる可能性のある領域の研究を進めている
研究者1%を選び抜き、科学研究費補助金より、
1けた多い研究費を5年間支給。

「1%では、選に漏れる優れた研究提案が多すぎる。
今、支給されている人数の3倍くらいは優秀な候補がいる」と北澤氏。

1段目(ボトムアップ型基礎研究)、
2段目(トップダウン型目的基礎研究)両方とも、
「日本の基礎研究は、現在の3倍程度に強化されることが望ましい」

前田、北澤両氏とも、科学研究費補助金が3倍必要で一致。
前田氏は一人当たりの金額増、
北澤氏は支給される研究者の数の増加が必要。

26学会会長による声明は、運営費交付金、私学助成金が
削減されてきた現状を強く批判。

では、どのような研究費配分を望んでいるのか、
いまひとつはっきりしない。
どこにどれだけ必要か、研究者の側がまず明確に主張しないと、
研究費増の実現は難しい。

http://www.scienceportal.jp/news/review/1005/1005041.html

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