2010年5月11日火曜日

インサイド:次代の針路 第1部 多様化するU18の現場/5止

(毎日 4月25日)

今年8月、シンガポールで新たな「五輪」が産声を上げる。
14~18歳を対象にした「ユース五輪」。
3年前、創設を宣言したIOCのジャック・ロゲ会長は、
「オリンピックムーブメント(五輪の精神を広める運動)にとって、

歴史的瞬間だ」

若者のスポーツ離れは、世界共通の悩みであり、
商業主義や勝利至上主義が、ドーピングのまん延など
スポーツ界にゆがみをもたらしている。
そんな時代に、ロゲ会長はくさびを打とうとした。
勝負偏重ではなく、教育重視。ユース五輪の思想。

選手には、大会期間中に文化・教育プログラムへの参加を促す。
五輪の精神や歴史的経緯、反ドーピングの啓発を含めた
健康教育などをテーマに、50種類の活動を予定。
選手には、競技を終えた後も、大会終了までシンガポールに滞在、
活動に参加するよう求めている。

だが、課題もある。
長期間の拘束に不満を持つ国もあり、米国や中国の反発が強い。
大会は8月14~26日、日本も8月に中学、高校の全国大会や
国体予選があり、日本オリンピック委員会の西村賢二強化部長は、
「ずっと現地に滞在するのは難しい。期間短縮を要望している」
ユースとはいえ、各国を代表するトップ選手。
海外ツアーなど、さまざまな大会出場に忙しいという現実。

シンガポール・ユース五輪組織委員会のフランシス・チョン副会長は、
「一部の国から、IOCに『短期滞在でも可能か』との問い合わせが。
選手にスポーツ、文化、教育を融合させた総体的な学びの場を提供。
義務ではないが、大会の成功には不可欠な要素。
友愛、尊重という五輪の価値を表現し、
忘れられない体験になる

日本卓球協会は、男子史上最年少の日本代表となった
丹羽孝希(15)、女子のシニア大会でも活躍する
谷岡あゆか(15)のトップ選手2人を派遣したい。
例年8月、プロツアーを転戦して世界ランキングを上げる時期だが、
日本代表男子の宮崎義仁監督は、
「プロツアーの転戦は、短期的には選手のためになる。
一生を考えれば、ユース五輪で経験を積むべきだ」

日本陸上競技連盟の原田康弘・ジュニア育成部長も、
「国際的な視野を広げる機会にしたい」と評価。
代表選手の決定はまだ先だが、出場資格を得ている谷岡は、
「積極的に外国選手と話し、経験を積みたい」と前向き。

4月21日、五輪の商業化やプロ選手の参加を積極推進した
IOC前会長のフアン・アントニオ・サマランチ氏が、
89歳で亡くなった。
ユース五輪は、サマランチ会長時代に表面化した
数々の問題を反面教師にしているかのように見える。

競技団体も選手も、「すべてが手探り」と声をそろえる新設大会。
教育を重視した理念が揺るがなければ、
スポーツの原点回帰を促す貴重な一歩になるかもしれない。
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◆ユース五輪

第1回夏季大会には、205カ国・地域から約3600人が参加予定。
12年ロンドン五輪と同じ26競技を実施、
種目数は08年北京五輪の302より少ない201種目。
各国・地域の選手派遣枠は、個人競技が70人以内、
団体競技は2チームまで、肥大化した五輪の反省を踏まえ、
規模を抑えている。
成長途上の若者への肉体的負担を考慮し、マラソンは実施しない。
バスケットボールを、半面のコートで3対3で行うなど独自色も。
第1回冬季大会は、12年にインスブルック(オーストリア)で開催。
夏冬とも、4年に1回行う。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/archive/news/2010/04/25/20100425ddm035050057000c.html

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