2010年7月5日月曜日

立花隆さんインタビュー全文(3)「がん大国」は悲しむべきことではない

(2010年6月26日 読売新聞)

--抗がん剤の効果は限られている、という話。
「有効な治療はない」と言われると、多くの人が希望を失う。
効かない治療でも続けてしまう面が。
治療を受けることだけが希望なのか?

立花 それは、患者個人の世界観によってみんな違う。
人間が有限な命しか持たない存在であるということを
踏まえる必要がある。

肉体的にがんに勝てなかったとしても、
がんに敗北しなかった人はたくさんいる。
ニュートリノ観測でノーベル賞に最も近いと言われた物理学者で、
一昨年、大腸がんで亡くなった戸塚洋二さんは、
見事な闘病記を残した。
「私にとって早い死といっても、健常者と比べて10年から20年の
違いではないか。みなと一緒だ、恐れることはない」と。

--代替療法を使う人も多い。効果はあるか?

立花 効果がある療法はない。
がんは多種多様なもの、きわめてまれに、がんが消えることはある。
代替医療のおかげでなく、人間の持っている力で、
そういうことはある。
がんが治るというような療法はない。
信じる者は救われるで、宗教みたいなもの。

--立花さんは、がんになって生活や仕事の面で変わったことは?

立花 たいして変わっていない。
何かが、がんを境に変わったということはない。

--大腸がんになったキャスターの鳥越俊太郎さんが、
「人生の残り時間を考えるようになった」と言っていた。

立花 それはあるが、必ずしもがんのせいではない。
自分の年齢がもう古希だから。
いろいろな意味で、体も頭も壊れつつあり、
坂道の下り坂にあると分かる。
がんは、その一つの表れとは言える。

--立花さんは、膀胱温存手術を受けられたが、
もう少し進行していたら、全摘になるところだった。

立花 早期ではなく、けっこう危ないところまで行っていたと、
後から分かった。
手術を受ける時、麻酔が効いていたから、つらくも何ともない。
麻酔が切れ、動けない状態はつらいが、
がんそのもののつらさはない。
歯医者に行った時のことがよほどつらい。

--がんの再発の心配は?

立花 再発の仕方が問題。
3か月に1回、内視鏡で精査。
見つかれば、そのたびに内視鏡で治療すればいい。
実際に、何度も繰り返し治療した人もいるのでは。
この年になったら、どこにがんができてもおかしくない。
そのことを心配しても、どうしようもない。

--がんの再発は、一般に怖いイメージが。

立花 それは全然ない。
再発の仕方によって千差万別。
がんの全容がつかめていない。
がんが遺伝子レベルで解明され、進行する過程の大きなマップが
分かれば、自分は今このあたりにいて、今後こうなると分かるが、
それがまだよく分からないのが今の状況。
がんが増えたことが問題になり、日本がこれだけの
「がん大国」になったのは、世界一の長寿国になったから。

--がん大国になったことは、悲しむべきことではないと思うか?

立花 そう思う。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/6/28/122158/

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