2010年7月4日日曜日

立花隆さんインタビュー全文(1)死に方を選べるなら、がんがいい

(2010年6月24日 読売新聞)

評論家・ジャーナリストの立花隆さんは2007年、
膀胱がんで手術を受けた。
がんとどう向き合うかを聞いた。

◆立花隆(たちばな・たかし)

1940年、長崎県生まれ。
東大仏文科卒。東大、立教大特任教授。
著書「田中角栄研究」、「脳死」など。

◆立花さんのがん体験

2007年、取材で超音波検査を受け、
膀胱にポリープ状の病変が見つかった。
翌月、血尿が出て、内視鏡検査の結果、がんと分かり、
膀胱を温存する手術を受けた。
転移はなく、定期検査を続けている。
 
--がんは、日本人の関心が最も高い病気。
立花さんも、がんに関する仕事をされている。

立花 僕は心臓病でカテーテル治療を受けていて、
リスクから言うと、心臓のほうが高い。
それに比べ、がんはどうってことない。
がんに関心があるのは、面白い病気だから。

がんは複雑で、一般論が成り立たない病気であることが、
研究が進むほど分かってきた。
「がんとはこういうもの」という人の言うことが必ずしも正しくない。
「がんは治る」、「がんは治らない」、どちらも正しいといえる。
がんの特徴は、転移と浸潤にあり、
細かい過程はよくわかっていない。

リンパ性の転移と血液の転移があり、他の臓器への遠隔転移は
血液で転移する。
最新の研究では、血液の中では、これまで考えられてきた100倍、
1000倍のがん細胞が流れている。
それを同定することもできる。
がん患者の血液の中を、がん細胞がどんどん流れ、
漂着した先でコロニー(植民地)をつくろうとするが、なかなか育たない。
日常的に、がん患者の体の中で起きている。
その認識がないと、がんに対するものの考え方を間違える。

--がんは怖い、というイメージが強い。

立花 がんの本質を考えると、生きていること自体が
がんを育てている。
人間は、がんから逃れることができない。

医師の中にも、「死に方を自分で選べるとすると、がんがいい」
という人がけっこういる。
バタンと死ぬわけではなく、ゆっくり進むから。
自分も、自分の周囲の人間も、その人が死に向かっていくのを
受容するゆとりのある病気。

日本のがん対策の基本的考え方が変わって、
緩和ケアが大事だという方向に。
日本は、痛みのケアを十分にやらなかった。
痛みをとるモルヒネの使用量が、日本では非常に少ない。
きちっとやってもらえば、がんの末期はそれほど苦しまないで済む。
モルヒネは麻薬で、日本では敵対的な感情があり、
緩和ケアに至ることが人生の敗北のように考える人が多い。
緩和ケアを受けず、苦しい思いをする人がいる。

一因は、がんの進行の流れのどこにあるか、
本人がよく説明を受けていないこと。
がんであることはもちろん、死に至るがんの流れの中で、
今どこにあるかということを医師は必ずしも言わないし、
家族にある程度言っても、本人に必ずしも伝わっていない。
それが大きな問題。

--抗がん剤などによる治療が進歩している。

立花 抗がん剤にもいろいろある。
もともと毒ガスから始まっている薬品で、細胞に対する猛毒。
ある種の抗がん剤について、高名な遺伝子の研究者が、
「人間の生命活動の一番基本的なところを破壊する。
そんな恐ろしいものは僕なら使わない」

大腸がんで亡くなった物理学者、戸塚洋二さんは、
ブログで闘病記を残し、どの抗がん剤を使い、どんな効果や
副作用があったか克明に記し、体がぼろぼろになっていく。
僕は、ああいう薬は使いたくない。

最近登場してきた分子標的薬とは性質が違うが、
分子標的薬も、そうした抗がん剤とセットで使っている。

--分子標的薬はどうか?

立花 分子標的薬はピンポイントで効くが、
どこを標的にするかで相当違う。
がんが増殖する経路の一つを薬でつぶしても、迂回路が出来る。
その繰り返し。
ある時は確かに効くが、迂回路ができるのに2か月。
2か月たつと、効かなくなっていく。
治療を始めると、2か月ごとに新しい薬を使うしかない。
いくつも薬があるわけではないので、ある程度やると、
「もうありません」。
あとは、一般的な細胞毒のある薬を投入するしかない。

新しい抗がん剤が登場し、治療が進歩しているという情報が
広がりすぎている。
たいていの薬は限界があり、がんの薬の成功は一時的。
それに意味があると考えるかどうかは、個人の価値観。
抗がん剤が寿命を延ばす効果は、2か月程度のことが多いが、
そのために副作用でQOL(生活の質)を下げる覚悟があるか。

--今後、がんの画期的な新薬が出てくる期待は?

立花 近い将来、画期的な薬や治療法が出てくる可能性はない。
がんがどういうものか、よくわかっていないから。
がんの正体が何なのか、ゲノムで解析しなければ、
薬や治療法の見通しも開けない。

--作家の柳美里さんは、「がん患者は、画期的治療が出てくることに
望みをかけて治療を続けている」という趣旨のことを書いている。

立花 それは幻想。あり得ないと考えていい。
慶応大学の放射線科医の近藤誠さんは、
「抗がん剤では、がんは治らない」と言って論争になったが、
基本的にほとんど正しい。
がんの専門医との内輪話で、「近藤さんが言っていることは
正しいということですか」と聞くと、「そうですよ」。
医師たちは知っている。

「抗がん剤でがんが治りました」というのは、
極めて特殊な場合に少数あるのかもしれないが、
一般的に抗がん剤でバラ色の未来が開けている、ということはない。

抗がん剤の製薬企業から医師に多くの研究資金が渡って、
医学論文には、研究者が抗がん剤のメーカーとどういう
資金関係があるか明示しなければならない。
学会を開く費用にも、製薬会社の資金が使われている。
抗がん剤に、否定的なことを言う人は多数派にならない。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/6/25/122094/

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