2009年4月2日木曜日

新トップが説く「環境」の危うさ

(日経 2009-03-23)

トヨタ自動車、ホンダ、ソニー、日立製作所、東芝。
危機が促しているのか、大手企業のトップ人事が最近多い。
注目されるのは、新社長になる経営者のほとんどが、
「環境技術をコア事業に」と記者会見などで語っている点。
危機が去った後の世界を見据えての決意表明。

日清食品でこんな話を聞いた。
インドで今、即席めんが売れている。
日清は、インドに進出して20年になるが、
最初の10年くらいはあまり売れなかった。
洗剤やシャンプーを小分けした容器に入れ、1個10円とか20円で
売られているのを見て、同じような売り方をした。
通常の半分に分けた主力商品「トップラーメン」は、1個10円。
これが当たった。

所得水準が上がったこともあって、それより少し割高な
「カップヌードル」の小型版も好調。
インド駐在が長かった安田智和さん(国際管理部次長)は、
「インドは、世界中の企業がコールセンターをつくった。
勤務中は外に出ることが出来ず、夜勤も多いので、
それらで働く人たちがたくさん買っているようです」

米ジャーナリストのトーマス・フリードマンが書いた
「フラット化する世界」を思い出す。
フリードマンは、ニューヨークで話しているコールセンターの相手が
インドにいる労働者だと知って驚き、同書を書いた。
日清の話を聞いて筆者が想像したのは、ニューヨークの相手と話している
インドの労働者が夜、カップヌードルをすすっている姿。

興味深いのは、フラット化する世界の中で先進国から仕事を
吸い寄せているインドがラーメンから自動車まで、
消費の行動やライフスタイルが日本の高度経済成長時代をたどるように、
前に進んでいる点。

恐らくインドやほかの新興国は今後、相当な技術と経済規模を持ち始め、
日本にとって強力なライバルに。
その時、日本の企業に逃げ道はあるのか?

この危機で露呈したのは、例えば電機業界のもろさ。
アナログテレビからデジタルテレビへの移行で、
日本は「垂直統合」と呼ばれる経営戦略をとった。
部品から完成品までを自前でこなし、
付加価値を韓国や台湾企業などに与えないという戦略。

世界は予想以上にフラット化し、韓国や台湾、欧米企業がとった、
世界中の他人の工場設備を活用する「水平分業」モデルに
見事に敗れてしまった。
残ったのは、液晶やプラズマ、半導体の製造拠点に投じた時の
多額の負債と雇用。

そこで、冒頭のトップ交代である。
新しい社長たちが語る危機後の経営とは、これまでの失敗の教訓を
生かしたものだろう。
電機でいえば、日立も東芝も新社長はデジタル系ではなく、
電力など社会インフラ系の出身者。
新体制は、利益の源泉を価格競争にのみ込まれにくく、
日本にまだ技術的優位性がある環境ビジネスなどに求めていく。

原発、水、太陽エネルギー、LED、電池……。
次の10年の進む道はそれらだが、その際には十分、
これまでの反省を生かしてほしい。
この10年は、右にならえでデジタル製品に投資競争を展開し、
過当競争を引き起こして利益につながらなかった。
次の10年は、同じ「環境」分野でも他人の真似はすべきでない。
独自の技術と戦略を背景にした、オンリーワンの領域を何とか探してほしい。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan090319.html

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