2009年4月4日土曜日

糖尿病患者・予備群2000万人突破(その2止) なくそう・減らそう糖尿病

(2009年3月25日 毎日新聞社)

◇自ら学ぶ「教育入院」

朝日生命成人病研究所丸の内病院。
糖尿病患者が外来の8割。
85年の開院当初、糖尿病患者の教育入院を始めた草分け。
1-2週間の入院から、仕事を長期に休めない患者向けの
週末入院コース(3泊)もある。
28床で、年間約600人が入院。
健診で高血糖だと分かり入院を勧められたり、
診療所で血糖値の高い状態が続いて紹介されてきた患者が多い。

教育入院とは、患者が糖尿病という病気を理解し、生活上の注意点を
自分で考えて、病気と上手に付き合えるようにすることが目的。
吉田洋子・糖尿病代謝科部長は、
「糖尿病は薬だけで治療できない。教育入院を通じて、
患者さんが主体的に食事や運動療法を行えるように支援」

3月中旬、病院を訪ねた。
夕食メニューは、豚のもも肉をみそで味付けして焼いた「もろみ焼き」、
「ホタテと大根のサラダ」、「ジャガイモとタマネギの煮物」、「澄まし汁」にオレンジ。

午後6時すぎ、十数人の患者が食堂に。
それぞれの摂取カロリーに応じて、茶わんにご飯を計ってよそう。
自分の食事の量を体験して覚えていく。
「ホタテは10グラムしか入っていませんが、缶詰を使っているので味が出ます。
大根は千切りにして塩を振ってもんで、水気をしっかり切るのが大事。
シャキシャキ感が残ります」

栄養士の戸部江美さんが、献立の食材や調理方法を解説。
患者からは「大根は火を通さないのですか」、「シャキシャキしていておいしい」
などと、次々に質問や感想が上がる。

患者はスケジュールに沿って生活。
午前と午後に1時間ずつ開かれる糖尿病教室に参加し、
医師や看護師らの話を聞く。
ストレッチをこなしたり、病棟内にある1周120メートルのウオーキングコースを
食後に歩く患者の姿も。近くの皇居周辺を歩くことも。
インスリン注射は、食事前に処置室に集まって行い、
看護師が正しく注射できているかを1人ずつ確認。

横浜市の森谷捷三さん(66)は、5年前から毎年1回、教育入院。
働いていたときから服薬していたが、徐々に血糖値が悪化し、
退職を契機に教育入院を決意。

森谷さんは、「自宅では、どうしてもカロリーを取り過ぎてしまう。
入院すると、自分が食べ過ぎているのを再認識できる。
気持ちを新たにして、食事や運動療法に取り組める。
目の検査など、病気の進行度をチェックしてもらえるので、
年1回、定期検査も兼ねて来ている」

吉田さんは、「食事や運動の効果を実際に体験してもらい、
自分の生活に取り入れてほしい」

◇「治療している」55%どまり

厚労省の国民健康・栄養調査では、
「糖尿病が強く疑われる人(患者)」が約890万人、
「可能性を否定できない人(予備群)」が約1320万人と推計、
患者と予備群の合計が約2210万人に。

前回(02年)の調査では、患者約740万人、予備群約880万人の
計約1620万人、糖尿病の患者・予備群が急増。
20歳以上の患者のうち、「現在、治療を受けている人」は55・7%、
39・2%は「治療を受けたことがない」

患者・予備群が増加している背景には、
▽食生活の欧米化(脂肪摂取の増加)
▽運動量の減少――などが指摘。

最近は、「やせ」の若い女性の増加に伴う低出生体重児の増加。
低体重児は、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の分泌機能の
発達が不十分なことが多い。
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◇5年間で患者減、可能だ--日本糖尿病学会理事長・門脇孝氏

糖尿病の患者が増えたのは、欧米型の生活習慣が普及したのが最大の要因。
脂肪を取り過ぎ、運動不足が重なり、内臓脂肪が蓄積。
内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)対策を
正しく進めることは発症予防に役立つ。

自覚症状のない病気とあって、血糖値を測定して早期に診断することが重要。
診断精度を高めるため、血糖測定だけでなく、過去1-2カ月の血糖の状態を
示すヘモグロビンA1cの数値を用いる。

学会では、「対糖尿病戦略5カ年計画」の改定作業を進めている。
糖尿病の病態解明と治療・予防環境の向上の2本柱を掲げた。
病態解明では、日本人の糖尿病の特質を説明する関連遺伝子を
発見するなどの成果を上げてきた。
治療・予防環境も、日本人の臨床研究を進めて治療データを蓄積、
今後5年間にはそれらの結果が出る。
これらの成果を治療や予防に反映していきたい。

患者数と合併症が増えているが、今後5年間で患者数の増加を減少に
転じさせることを明確に掲げたい。
それが可能ではないか、という気持ちを持ち始めている。
解明が困難と言われていた、糖尿病の遺伝子が次々見つかったから。
啓発活動が功を奏して、男女とも脂肪摂取が横ばい、最近では減少傾向に。

今後は運動を増やしていけるように、運動療法士の養成を支援したり、
ウオーキングできる場所やスポーツ施設の充実を街づくりに反映するよう提言。
レストランのメニューなど、糖尿病患者向けのヘルシーメニューを
増やすよう働きかけていく。

社会として生活習慣病を減らす仕組みや、患者が負担なく食事や
運動療法に取り組める環境づくりが重要。
そうした取り組みを通じて、患者を減らしたい。

学会は、これまで糖尿病の原因や治療研究を重視し、成果も上げてきた。
学術研究だけでなく、社会的責任も増している。
医師会や糖尿病協会などとつくった糖尿病対策推進会議、
地方自治体や国との連携、国際的な連携を重視したい。
こうしたつながりを大切に、学会の考えを明確に伝える努力をしていきたい。
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◇糖尿病予備群

糖尿病と確定診断されなくても、血糖値が正常値より高めの人を指す。
日本糖尿病学会の診断基準は「境界型」と位置づけ、
空腹時血糖値が血液1デシリットルあたり110-126ミリグラム未満、
食後血糖値が140-200ミリグラム未満の人が該当。
同学会は、糖尿病に準じた対応が必要と定める。

厚労省の国民健康・栄養調査では、「糖尿病の可能性が否定できない人」
として、過去1-2カ月の平均的な血糖状態を示す
ヘモグロビンA1c(HbA1c)が5.6-6.1%未満の人を対象。
08年、正常値でも空腹時血糖値が100-110ミリグラム未満の場合、
「正常高値」と診断する新しい基準を公表。
正常高値は、「健康な人の中でも、将来糖尿病になりやすいグループ」
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◆教育入院の主な一日(丸の内病院の場合)
 6時    起床・検温
 6時半   血糖測定、体重測定
 7時45分 インスリンを自己注射してから朝食
10時-   主治医の回診、看護師の訪室
11時    糖尿病教室
12時    血糖測定、インスリン注射後に昼食
13時    ロビーでストレッチや体操
13時半   糖尿病教室
16時半   血糖測定
18時    インスリン注射後に夕食
19時    看護師の訪室
21時    血糖測定
22時    インスリン注射し就寝
 *インスリン注射は必要な患者の場合
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◇かどわき・たかし

東京大医卒。米国立衛生研究所客員研究員、東京大講師、
助教授などを経て、03年から東京大糖尿病・代謝内科教授。
05年、東京大病院副院長兼務。
08年5月から日本糖尿病学会理事長。56歳。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2009/3/25/94244/

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