2009年4月2日木曜日

糖尿病患者・予備群2000万人突破(その1) なくそう・減らそう糖尿病

(2009年3月25日 毎日新聞社)

07年の国民健康・栄養調査で、日本の糖尿病患者・予備群が
計約2210万人と、初めて2000万人を突破。
20歳以上の男性の29.3%、女性の23.2%、
国民一人ひとりが糖尿病と真剣に向き合うことが求められている。

◇目標持ってまず一歩

「これ、何とかしませんか」
健康診断でベッドに横たわる男性のおなかをペンペンとたたくと、
多くの人が苦笑いする。
「生活習慣病の予備群の人は、自分の健康状態を気にしている。
聞く耳を持っているので、そこへ働きかければいい」

朝比奈クリニック(日野市)の朝比奈崇介院長。
糖尿病をはじめとする生活習慣病は自覚症状がなく、
血液検査で数値の悪化を指摘されても、生活習慣の改善を始めにくい。
糖尿病予備群が何もしないと、7-8割が糖尿病と診断、
自覚症状のなさは、糖尿病患者増加に歯止めがかからない一因。

朝比奈院長が大切にしているのは、「何のための治療か」という視点。
「やせたり、血糖値を下げることが目的ではない。
高血糖状態が続いて、失明や腎臓の機能障害などの合併症で
苦しまないようにすることが、糖尿病治療の最終的な目的。
そのことが理解できれば、生活習慣は変わる」

食事の改善ができない糖尿病患者に、
「今までと同じような食事をしていたら、お孫さんの顔が見られなくなりますよ」
と話しかけることで、減量に成功した例。

「お酒を飲まないと生きている意味がない」、
「お菓子なしの生活は考えられない」という患者には、
「お酒を飲むためや、お菓子を食べるために生きているんですか」と。

◇「自分にもできる」 目標設定が大事

目的が明確になれば、何をしなければならないかが見えてくる。
「3キロやせる」、「血糖値を下げる」という目標は具体性に欠け、
何から手をつけなければならないかが分かりにくい。

「毎日20分歩く」、「早食いをやめるため、20回以上かむ」など
具体的な目標であれば、やるべきことが明確で、後からの評価もしやすい。

「自分にできること」を目標に置くことがポイント。
高い目標を掲げても、続かなければ意味がない。
一つの行動が違和感なくできるようになったら、もう一つ足す。
血糖値の低下が不十分な場合は、薬の助けを借りる。

血糖値の低下に効果がある行動変容の一つが、ウオーキング。
摂取カロリーを減らすより、消費カロリーを増やす方が精神的な負担が低く、
本格的なスポーツを始めることが難しい働き盛りの人に勧められる。

その人の最大酸素摂取量の半分に達する運動を1日20分間することが、
血糖値を下げる効果が高い。
自分にあった運動量は脈拍数で分かる。
脈拍数は、隣の人と息切れをしないで会話できるくらいの運動量、
つまりウオーキング程度。

朝比奈院長は、「科学的には、2日に1度でも効果はある。
雨が降ったり、荷物があったり、疲れているなど、
人はどうしても言い訳をつくってさぼってしまう。
目標を毎日としておけば、ちょうど2日に1度くらいのペースに」

◇検査値の数字に一喜一憂しない

健診などで異常値が出たり、再検査を勧められたときのとらえ方にもコツがある。
朝比奈院長は、「検査値の数字に一喜一憂しないこと」

75グラムのブドウ糖負荷後血糖値が、血液1デシリットルあたり
200ミリグラム以上になると、糖尿病と診断。
「199」だと、「糖尿病ではなかった」と安心しがち。
1ミリグラムの違いは実質的にほとんどない。
1回の検査では、前日の食生活や運動量によって通常とは異なる数値が
出ている可能性もある。

継続して検査を受け、傾向をつかむことが重要。
患者や予備群の人が、医師や看護師、栄養士を上手に使うことも必要。
医療関係者から生活習慣改善の指示を出されると、
できそうになくても、つい「やります」と答えてしまいがち。
「できません」と正直に言えば、医療関係者は
「この人にとって、効果的な生活習慣改善の方法は何か」と、
お仕着せではない個人向けのプランを真剣に考えてくれる。

朝比奈院長は、「医療側は本来、個別にプランを考えることが仕事。
患者側が交渉力をつければ、個別プランを引き出すことができる」
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◇国民の理解、深める運動--日本糖尿病協会理事長・清野裕氏

糖尿病の治療を中断したり、放置している人が依然として多い。
断続的にでなく、定期的にきちんと受診している患者は200万人ぐらい。
長く放置し、病院にきたときには、合併症が見つかる事態に。

発症予防に取り組むことはもちろん大切だが、
(患者数が減るという)成果が出るのは10年、20年先。
今、糖尿病を発症した患者の病気の進行と重症化を
食い止めることが喫緊の課題。

患者には糖尿病だと認めたくない、という気持ち。
食事に気を使い運動を心がけるなど、生活が制約されると思いがち。
食欲のコントロールは、容易でない。

一つでも、できることから取り組むこと。
3カ月に1回は医療機関に行って、過去1-2カ月の血糖の状態を示す
ヘモグロビンA1cの数値を測ることから始めては。

血糖値のコントロールがそれほどよくなくても、定期的に受診している人は、
重篤な合併症を起こすことが少ない。

治療の継続には、初期のころの患者教育が重要。
厳しいばかりでは患者が耐えられず、治療から脱落してしまう。
患者の身になって考え、信頼関係を築くことが大切。
糖尿病療養指導士らが知識だけでなく、患者教育の実技を身につける方策も必要。
(私が所属する)関西電力病院では、周辺の診療所との連携を始めた。
かかりつけ医の糖尿病への関心が高まり、医療の質が向上。

専門医の数が限られる中、地域連携が重要。
世界的に糖尿病の患者が増えている。
3月6日、台湾でアジア糖尿病学会が設立。
日本や中国、韓国、カンボジア、タイなど17カ国・地域が参加。

欧米と違い、アジア人ではやせていても糖尿病に。
食生活や文化、風土が違うため、各国の糖尿病の特徴や疫学調査などの
研究を踏まえ協力していきたい。

日本の患者数は、いずれ1000万人を超えるのではないかと危機感。
世界糖尿病デー(11月14日)などを通じて、
国民に糖尿病への理解を深めてもらう活動を続けていく。
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◇せいの・ゆたか
京都大医卒。米ワシントン大客員研究員などを経て、
96年、京都大糖尿病・栄養内科学教授。
01年、京都大病院副院長、04年から関西電力病院長。
国際糖尿病連合理事、アジア糖尿病学会長。67歳。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2009/3/25/94236/

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