2009年4月3日金曜日

シャープを抜いたターンキーの脅威

(日経 2009-03-24)

環境ビジネスの注目株、太陽電池市場で
欧州やアジアのベンチャー企業の台頭が著しい。
世界のトップを走ってきた日本勢だが、各国の新興企業に
あっという間に追いつかれ、追い越されてしまった。

「ターンキー方式」と呼ぶ一貫製造ラインの活用と、
「早いもの勝ち」でシェアを奪う短期集中投資型のスピード経営に
躍進の秘密。

「太陽光発電の技術を開発したのは米国だが、その生産においては
ドイツや日本に追い抜かれてしまった」
オバマ米大統領は、初の議会演説で国内のエネルギー関係者に喝。
ドイツと並び、日本を太陽電池先進国に挙げてくれたのは光栄だが、
日本の優位は既に揺らいでいる。

太陽光発電の累積導入量で、日本は2005年にドイツに抜かれ、
企業の太陽電池生産シェアでは07年、
独Qセルズがシャープから首位の座を奪った。

政府が06年、太陽光発電装置購入の際の補助金を打ち切った
(今年1月に復活)ことが、日本失速の要因と指摘。
ドイツは、太陽光発電を高値で買い取るよう電力会社に義務付け、
導入件数を飛躍的に増やした。
政府の財政支援だけで、Qセルズなどが躍進したわけではない。

新興企業に共通するのは、「時間を買う」という戦略。
株式公開で得た資金力を武器に、製造ノウハウなど完成した技術を
外部から導入、高い投資効率で短期間に市場参入を成し遂げた。
技術開発を自社に頼る自前主義が強く、経営の意思決定のスピードが遅い
日本企業にはまねのできない芸当。

こうした戦略を支えたのが、ターンキー方式と呼ぶ一貫製造ライン。
装置のカギを回せば、すぐに製品が出てくるという意味、
アルバックや米アプライド・マテリアルズといった日米の製造装置大手が、
この方式の一貫製造ラインの提供に力を入れ、装置の納入、
据え付けから量産開始までを請け負っている。

新興企業が得意とするのは、薄膜タイプの太陽電池。
発電効率は落ちるが、シリコンの使用量が少なく、生産工程もシンプル。
エネルギーの変換効率などの技術開発は、日本に「1日の長」があるのは
海外も認めるが、低コスト競争では薄膜で攻めた新興企業に軍配が上がる。

金融危機の影響で、欧州各国では太陽光発電への助成の削減が予想。
「生産コストを引き下げられる企業だけが生き残る」とのサバイバルレースは、
アジアの新興企業に有利。

半導体や液晶で、韓国などのアジア勢にシェアを奪われた
日本敗北のデジャビュ(既視感)が頭をよぎる。
「技術では勝っているが…」という言い分は、一敗地にまみれた
半導体メーカー首脳から何度も聞かされた恨み節だが、
この敗北の歴史を太陽電池で繰り返さないためには何をどうすべきか。

日本の太陽電池開発を、草創期からけん引した桑野幸徳・三洋電機元社長
「ライバルの一歩先を行く技術の開発を持続的に成し遂げ、
技術流出を防ぐブラックボックス戦略を徹底することに尽きる」

三洋が10年かけて開発した「HIT太陽電池」は、
結晶型と薄膜型を組み合わせ世界最高の変換効率22.3%を達成。
桑野氏は、「HITのような、ライバルがまねできない強い製品を作り、
これを武器に海外に打って出て、顧客開拓で先手を握ることが日本の生きる道」

4半世紀前、ターンキー戦略の効用にいち早く着目した起業家が日本にいた。
ミネベア創業者の故高橋高見氏。
1984年、半導体事業に参入して周囲を驚かせた高橋氏は、
「精密ベアリング(軸受け)の製造技術があれば、
素人でも半導体などわけなく作ってみせる」と、大手電機メーカーを挑発。
奔放な発言は物議を醸したが、装置産業と化した半導体事業は、
資金力さえあれば技術や特許、装置を海外などから購入、畑違いでも
挑戦できると見抜いていた。

氏の野望は、大手の壁に阻まれ9年間でついえたが、
この新規参入の手法を韓国、台湾が学び、日本勢を脅かすベンチャーを輩出。
半導体、液晶と同じく太陽電池でも日本のプレーヤーは依然、老舗企業ばかり。
ベンチャーが続々登場し、下克上が当たり前の競争を繰り広げる
アジアなどと異なる。

「挑戦者を排除したり、政府に頼る風土が続く限り、日本は変わらない」
高橋氏は草葉の陰から、「それ見たことか」と嘆いているだろう。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/mono/mon090317.html

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