2009年4月12日日曜日

医療機器、成長のための条件

(日経 2009-03-31)

製造業の落ち込みは、海外よりも国内のほうが大きいことが明らかに。
受注金額が、前年同期比16%(84%減)という不振にあえぐ
工作機械業界でも、「世界中どこでも需要は減っているが、
特にひどいのが国内」(牧野フライス製作所)との声。

2008年10-12月期、国内総生産(GDP)が前年同期より
12.1%(年率換算)減った主な要因は、
自動車・電機を中心とした輸出の不振。
不況が終われば、自動車と電機の輸出も上向くはずだが、
元通りの水準には戻らないかもしれない。

自動車や電機の代わりになるような、新たな産業の柱が欲しい。
長期的な需要が見込める分野で、今後、ものづくり技術を転用することで
強化できる分野の1つと考えられるのが「医療」

現状では、「病院の中に医療機器はたくさんあるが、8割は海外製」
国産の機器は、X線CT装置、超音波画像診断装置や内視鏡などの
検査用機器がほとんどで、ペースメーカーのような治療用機器は
ほぼすべて輸入品。

厚生労働省の薬事工業生産動態統計年報でみても、
07年における医療機器の国内市場(=生産額+輸入額−輸出額)は
2兆1314億円、輸入金額は1兆220億円と約半分。

国内メーカーが技術で劣っているわけではない。
三菱重工業は08年、がん治療向けの放射線治療装置「MHI-TM2000」
を発売、医療分野へ本格参入。
重機械メーカーとしての技術の粋を集め、放射線の照準を患部に
合わせるまでの時間を大幅に短縮、患者が装置に入ってから
治療を終了するまで、従来は1時間かかっていたものを15分に。
照射ヘッドの首ふり機構、60枚の遮へい板を細かく制御して
X線ビームの断面形状を調整する装置などの新機軸を搭載。

治療用機器で、国内メーカーのシェアが低い理由の1つは、
薬事法による製造販売承認を取得するまでにかかる時間の長さ。

背景には、医療機器で事故が起こった場合の責任問題。
医療機器に限らず、機械装置にはどうしても一定のリスクが生じてしまう。

日本は、「社会的に許容できるレベルのリスクは受け入れる」という
文化に乏しく、実質的に100%安全でなければ許されない。
製造業の製品安全などで普及が始まった「リスクマネジメント」
考え方を導入し、リスクがどこにどの程度の確率で存在するかを
明らかにした上で、社会的に許容できるかどうかを考える、
といった枠組みが必要。

医療分野は、「安心」に密接に関連している分野。
20世紀の製造業は、「もの」を大量につくって供給することが役割、
今後は「もの」を含めて、「安全・安心」を供給する役割を担うべき。
先進国を中心として「もの」への欲求は弱まり、
その代わり安全・安心へのニーズが強まっている。

「食の安全」で注目される農業分野でも、
ものづくりの技術を生かせる可能性が大きい。
作物を計画的に生産する、「植物工場」の試みが始まっている。
植物を、「DNAという設計成長プログラムが入ったバイオコンピューター」と考え、
入力と出力の関係を明らかにしたうえで、入力をコントロールすれば
計画通りの生産が可能に。
これは、「ものづくり」そのもの。

海外に依存しているものの生産を国内に取り戻し、
内需を満たすことで産業として確立する。
蓄積した技術を生かして、「安全・安心」を伴ったものを海外へ輸出する。
このような戦略を実行に移すべきときに来ている。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/mono/mon090330.html

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