(日経 2009-05-01)
万能細胞研究に関する規制緩和が進み出し、
再生医療への期待が高まっている。
実現には、まだいくつもの壁がある。
例えば、細胞の培養や加工には、医薬品と同等の厳重な品質対策が
求められ、高度な専用「工場」が必要。
東京女子医科大学は民間企業と組み、
そのモデルともいえる新センターを開設。
同大の経験から、臨床応用への課題を探った。
東京女子医大がバイオベンチャー企業、セルシードと共同で完成した
設備は、「細胞プロセッシングセンター(CPC)」
患者の体の健康な部分からとった細胞を培養、患部に移植しやすいよう
薄いシート状に加工して「出荷」。
歯根膜を作って歯周病の治療に使ったり、食道の膜を食道がんの治療に
応用したりする計画。
CPCは、大学の先端生命医科学研究所の一角にあり、
モニター室などを含めると320平方メートルを占める。
汚染を防ぐため、出入り口は研究所本体とは分けている。
白衣に着替えて一歩踏み込むと、まるで半導体工場のクリーンルーム。
生きた細胞を扱い、人間の体に入れる材料を処理するため消毒も万全。
手が髪の毛などに触れた場合、すぐに消毒しなければならない。
出入り口近くの部屋には、医療廃棄物を高圧蒸気で滅菌する
大型の「オートクレーブ」。
材料保管室があり、液体窒素で組織や細胞を冷凍保存できるタンクが並ぶ。
部屋のクリーン度は、「クラス10万」。
約30センチメートル四方にある直径0.5マイクロメートル以上の
ちりや微粒子は、10万個以下という清浄度。
奥へ進み、心臓部の細胞操作室の「前室」に入る。
清浄度は、10倍高いクラス1万。
白衣のうえに、不織布を着てホコリが立たないようにし、
いよいよ操作室へ。
幅19センチメートルの大型無菌キャビネット(カバー付きの作業台)があり、
内部はホコリが舞わないよう下降流を起こして、
クラス100の環境で作業できる。
同様の細胞操作室はもう1室ある。
加工した細胞を、「出荷」する前に余計な菌が存在しないことを
確かめる無菌検査室もある。
病原菌が紛れ込むと、どんどん増えて細胞を移植した患者に
害を及ぼす恐れがあるので、入念にチェックする。
これだけの建物・設備を整えるのに、約4億円かかった。
年間の運営費も、4000万円程度を見込む。
製薬会社などが順守する、薬事法に基づく治験薬GMP
(医薬品の製造・品質管理基準)に耐える中身。
東京女子医大はセルシードと協力し、
様々な助成制度も利用して費用を工面。
「大学だけではとても無理」と、同大の大和雅之教授は指摘。
他大学でも同じような悩みを抱える。
大阪大学のCPCも、クラス100のキャビネットを持ち、
GMP基準に合致した設備。
細胞処理の工程管理システムは、三洋電機とともに構築し、
細胞はバーコード管理。
年間の運営経費は、約3000万円。
同大学大学院医学系研究科の澤芳樹教授は、
「いずれ研究費が切れて倉庫になるのではないか」と不安。
設備を整えて臨床研究でデータを蓄積しても、
承認取得を目的とする治験では、
「改めて一からデータをとり直さなくてはならない」(澤教授)問題。
米国では、食品医薬品局(FDA)が臨床研究の段階から
治験を想定した計画作りを支援するので、研究結果を治験に生かせる。
新型万能細胞(iPS細胞)や胚性幹細胞(ES細胞)など、
万能細胞から作った細胞や組織を移植して病気を治す
再生医療は、国際競争が激化。
CPCの基準や治験の制度が硬直的だと、優れた研究成果があっても、
臨床に進む段階で米欧に大きく後れをとる懸念。
厚生労働省は、再生医療全体の制度的な枠組みや、
臨床研究指針などの検討に着手。
安全性の確保が重要なのは言うまでもないが、臨床応用を阻害しない
合理的な仕組みが求められる。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec090428.html
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