(日経 2009-05-04)
いつの時代にも実体は何であれ、
外観を美しくかつ意味あるもののように飾る言葉がある。
「グリーン・ニューディール」がその典型。
米オバマ政権が打ち出した、環境と景気刺激を同時に追求しようという政策。
ブッシュ前政権時代に、地球温暖化対策で大きく出遅れ、
京都議定書からも離脱した米国が地球温暖化など、
環境問題重視に大きくかじを切ることは歓迎すべき。
環境と景気刺激の「二兎を追う」政策に、過剰な期待をかけるのは禁物。
CO2排出を削減しようとすれば、自動車は小型軽量化せざるを得ず、
鋼材、樹脂など材料の使用量は減少に。燃料の消費量も減る。
小型化した車の組み立てラインの人員は、従来よりも少なくて済む。
素材産業や石油産業は、需要減少に見舞われ、
組み立て産業では、雇用が失われる恐れ。
ガソリンがぶ飲みの大型車が幅をきかせていた米国のような
“高炭素社会”では、グリーン・ニューディールは需要減退のリスクが高い。
自動車がハイブリッド車、電気自動車など環境対応車に転換する
プロセスで、新たな自動車需要は生まれるが、
それは通常の自動車の買い替えと同じで、需要拡大とはいえない。
環境対応車購入への優遇策で、買い替えの前倒しが期待できるくらい。
太陽光発電、風力発電などの装置産業や、スマートグリッドなどの
新たな送配電網の構築、断熱性能が高いエコ住宅の建設などでは、
新規需要や雇用が生み出される。
全体としてみれば、環境対応の強化は決してモノの需要の増加に
つながるわけではない。
グリーン・ニューディール政策については、欧州、日本から中国、
インドまで世界各国がオバマ政権に追随。
どんな国でも、政治は国民の幅広い支持が得られそうな政策や
キャッチフレーズに敏感。
政治が、グリーン・ニューディールを強調しすぎれば、
経済は停滞を続ける懸念がある。
景気回復には、グリーン・ニューディール以外の適切な需要創出策が必要。
省エネや様々な環境対応策がすでに具体化されている日本は、話が異なる。
グリーン・ニューディールが、需要を今の水準からさほど減退させない。
自動車は、すでに小型軽量化され、環境対応の進んだ車に乗り換えても、
原料などの需要減退の恐れは小さい。
ハイブリッド車、電気自動車の優遇策が、自動車の買い替え需要を
刺激することもあり得る。
環境省が発表した“日本版グリーン・ニューディール”は、
「緑の経済と社会の変革」と名付けられている。
施策は7分野で構成、環境対応の進んだ家電製品の購入を
支援することで話題となった「エコポイント」制度は、
「新3種の神器」と題された分野に含まれている。
エコポイントで最新鋭の家電に切り替わると、消費電力の減少によって
電力需要にはマイナスの影響が出る。
日本の電力会社は、夏場のピーク需要の抑制が発電設備全体の
年間平均稼働率上昇につながり、収益的にはプラスとなるため、
必ずしも悪い話ではない。
エコポイントによる家電の買い替え促進は、
経営不振の家電大手には強力な追い風に。
日本は省エネ対策が米欧に比べ先行したため、
1990年を基準年とする京都議定書のCO2排出削減は不利とされてきた。
京都議定書だけで言えばそうだが、先行したおかげで、
グリーン・ニューディール政策が景気刺激に大きな効果を持つ。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan090501.html
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