2009年11月15日日曜日

クローズアップ2009:トヨタ、F1撤退 メーカー参戦、色あせた意義

(毎日 11月5日)

トヨタ自動車が、F1世界選手権からの撤退を正式に表明。
昨年末、ホンダがF1、富士重工(スバル)とスズキが
世界ラリー選手権(WRC)から撤退、
四輪モータースポーツの世界選手権から、
日本メーカーが完全に姿を消す。
世界不況や、ハイブリッドカー(HV)のヒットに象徴されるエコ志向、
若者のクルマ離れ……。
逆風の中、日本のモータースポーツは、かつてない冬の時代。

◇巨額経費、人気も低下

トヨタのF1撤退の理由が、「今の経済状況」(豊田章男社長)
にあるのは間違いない。
自動車メーカーにとって、年間数百億円もの経費がかかる
「金食い虫」であるF1の魅力が、欠けてきているのも確か。

F1は近年、コスト削減を目的にハイテク技術を締め出す傾向。
エンジンは開発が凍結され、技術力をアピールする場としての
魅力は急速に薄れつつある。
興行的にも、08年のシンガポール・グランプリ(GP)で、
ルノーチームがエースドライバーに勝たせるため、
セカンドドライバーにわざと事故を起こさせた事件など、
スキャンダルが続発。

今季は、コスト削減案を巡り、主管する国際自動車連盟(FIA)と
チーム側の間で分裂騒ぎが起き、F1のブランドイメージは失墜。

日本メーカーが、F1やWRCに参戦する理由の一つは、
モータースポーツ人気の高い欧州での知名度アップ。

その点では、トヨタも目的を達した部分があるが、
日本でのモータースポーツ人気は低下傾向。
フジテレビが、87年から中継しているF1日本GPの視聴率は、
アイルトン・セナ(ブラジル)やアラン・プロスト(フランス)が活躍していた
91年に最高の20・8%、今年は5・1%と過去最低。
日本自動車連盟(JAF)によると、モータースポーツ参加に必要な
競技用免許の取得者は、92年の8万人超をピーク、
08年は約4万7000人と最盛期の約4割減。

国内の自動車市場も、スポーツ性よりエコ性重視。
幕張メッセで開かれたモーターショーは、
ハイブリッドや電気自動車などエコ技術一色。
かつてショーの華だったレーシングカーなどの展示は、
ほとんど見られなかった。

豊田社長は、「地域に根ざしたモータースポーツ活動は続ける。
車を鍛え、人を育てる自動車文化の一つにしたい」、
少なくとも国内では、モータースポーツのあり方、
メーカーとのかかわり方を見直す時期に。

トヨタのF1チーム代表を務める山科忠専務取締役は、
今後の活動について、「エコカーだけのレースでワクワクするか。
金をかけず、一般人も参加できる中に解決策があるのでは?」

◇エコカー開発に集中

豊田社長は、「ファンのことを考えると身につまされるが、
今は商品を軸とした経営に資源を集中すべきだと考えた」

08年のホンダ撤退後も、「12年まで継続」の旗を降ろさず、
悲願の初優勝を射程圏内にとらえるところまでチームは成長。
国際C級ライセンスを持ち、自らもレースに出場してきた
豊田社長の言葉の端々に悔しさがにじむ。

今年6月に就任した豊田社長の「公約」は、
09年度で2期連続となる赤字決算から、11年3月期に脱却。
「プリウス」など、HV人気で新車販売が復調傾向にあり、
09年9月連結中間決算で、営業損失は従来予想の
4000億円から大幅に縮小する見通し。
もうけの大きい高級車、大型車の不振が響き、
巨額赤字の解消にはほど遠い。

「経営資源を次世代環境車に投入する」として、撤退したホンダは、
レーシングカーの開発を担当していた約400人の技術者の
ほぼ全員を、HV関連技術などの開発にシフト。
今年2月発売のHV「インサイト」などを持つエコカー部門を強化。
「走り」のイメージから、エコカーなど環境技術を中核とする
企業への転換を進めるホンダは、
10年3月期の営業利益を1900億円と予想。
業績回復でトヨタに先んじている。

「100年に1度の大変革期」(豊田社長)を迎えた
新車市場を勝ち抜くには、資金や人材など経営資源を
エコカー開発に集中しなくてはならない。
中間決算が固まるにつれ、トヨタ社内では、
「F1を続けていては、株主に説明がつかない」との声が強まり、
F1撤退をこれ以上、遅らせるわけにはいかない状況。
==============
◇F1世界選手権

F1は、フォーミュラワンの略称。
国際自動車連盟(FIA)が主管する世界最高峰の自動車レース。
1人乗りのフォーミュラカー(四輪が露出したタイプのレーシングカー)
で競われ、今季のマシン規定では排気量2.4リットルの
V8エンジンを積み、最大出力は900馬力以上。
最高時速は300キロ超。
1950年に始まり、今季は16カ国で全17戦が開催。
五輪、サッカーワールドカップと並び「世界3大スポーツ」。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2009/11/05/20091105ddm003050098000c.html

0 件のコメント: