2009年11月20日金曜日

寄稿『科学技術に事業仕分けは向いていない』

(サイエンスポータル 2009年11月17日)

行政刷新会議による事業仕分け作業が、大きな関心。
新聞、テレビなどの扱いも、仕分け作業をおおむね好意的。
科学技術関係に関し、仕分け作業に要する時間が十分だろうか?
中村直樹・科学新聞記者からの寄稿。

◆「科学技術に事業仕分けは向いていない」

科学技術関連予算の事業仕分けが行われ、
ほとんどの事業について予算を縮減。
地域科学技術振興や産学官連携、理科支援員等配置事業は
廃止という結論。

一事業、一群の事業を、1時間で説明・議論し結論を出す、
という強引な方法で、仕分け人の多くが基本的な事業の内容や
意義について、十分な理解さえしていない。

競争的資金(先端研究)は、科学技術振興調整費
(革新的技術推進費、先端融合領域イノベーション創出拠点の形成)、
科学研究費補助金(特別推進研究、特定領域研究、
新学術領域研究、基盤研究(S))、戦略的創造研究推進事業、
戦略的イノベーション創出推進事業、先端的低炭素化技術開発、
戦略的基礎科学研究強化プログラム、という6事業を
1つの区分として、1時間の枠の中で「予算の縮減」との結論。

仕分け人側は、科学研究費補助金を獲得したことのある
名誉教授などが中心、ほとんどの議論が科研費に集中。
数人の仕分け人が、科研費制度全体への不満を言うだけで、
各研究種目の違いなど、ほとんど議論されない。
その他の競争的資金は、議論の対象にすらならないものも。

制度全体の話として、間接経費を縮減すべきだという意見も、
基盤を支える運営費交付金などの経常経費が減っているという
前提について、理解ができていない。

競争的資金(若手研究育成)では、科学技術振興調整費
(若手研究者養成システム改革)、科学研究費補助金
(若手研究(S)(A)(B)、特別研究員奨励費)、
特別研究員事業を、一群として取り扱い、「予算の縮減」と結論。

驚いたのは、これらの事業をポスドクの雇用対策であるという
認識を示したこと。
特別研究員に選ばれる若手は、支援終了後5年間で9割以上が
常勤職を得られる優秀な人材で、若手研究者養成システム改革の
テニュアトラックに採択される若手研究者は、国際公募で選ばれ、
非常に選別された優秀な人材。
科研費の若手研究に採択されるのは、きちんと職を得ている
若手研究者で、論点そのものがずれている。

地域科学技術振興・産学官連携(知的クラスター創成事業、
都市エリア産学官連携促進事業、産学官民連携による
地域イノベーションクラスター創成事業、産学官連携戦略展開事業、
地域イノベーション創出総合支援事業)の評価は、「廃止」。

この日の議論で、最もその内容を理解してもらえなかった事業。
地域の大学や自治体、共同研究相手の企業にとって
使いやすい制度にするため、徐々に細かいメニューを設定、
地方にとっての「使いやすさ」も、仕分け人から見たら
「わかりにくさ。使いにくさ」と見えた。

これらの事業をまとめて一群にしたことから、
最初から「廃止」の結論ありきではなかったか、と。

何かを判断する場合、事業の内容や趣旨を理解すること、
判断の理由を明確にするということが、当然。
科学技術に関する限り、事業仕分けという仕組みが適切ではない。
総合科学技術会議の優先度判定などで、毎年評価を行い、
加えて事業仕分けすること自体が行政の無駄ではないか。

13日の事業仕分けに対する評価とその詳細は次の通り。

次世代スパコンプロジェクトは、縮減の内容は半額以上。
計画の凍結、来年度の予算は、「見送りに限りなく近い縮減」。
大型放射光施設(Spring-8)は、「3分の1~2分の1程度予算の縮減」、
植物科学研究事業は、「3分の1程度予算の縮減」、
バイオリソース事業は、「3分の1程度予算の縮減」。
深海地球ドリリング計画推進は、「1割から2割の予算要求の縮減」。
地球内部ダイナミクス研究は、「少なくとも来年度の予算の計上は見送り」
と「予算要求の半額縮減」の両案併記。

競争的資金(先端研究)の予算は、
「若手研究者への資金配分にも力を入れてほしい」、
「コスト削減が必要」とのコメントを付し、
「整理して縮減することが求められている」。
制度について、一元化を含め、制度をシンプル化し、
使い勝手の良いものにするよう求めた。

競争的資金(若手研究者育成)は、「予算要求の縮減」。
コメントに、「ポスドクの生活保護のようなシステムはやめるべき。
本人にとっても不幸」、
「教員免許を、ポスドクに付与する政策を検討すべき」などの意見。

世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラムは、「予算要求の縮減」
学術国際交流事業は、「予算要求の縮減」。
地域科学技術振興・産学官連携について、
必要性を認めないわけではないが、国としてはやる必要がなく「廃止」。
理科支援員等配置事業は、「廃止」。
日本科学未来館は、「予算要求の縮減」。

http://scienceportal.jp/news/review/0911/0911171.html

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