2009年11月20日金曜日

総合学科高校(1)実力つける 科目選び模索

(読売 11月10日)

「自分の時間割」で学べる総合学科高校が登場し、今年で15年。

教室ごとに、生徒が多様な授業を受けていた。
東京都立つばさ総合高校の教室。
3年の山本麻代さん(17)が、選択「素描」の授業で、
石こうデッサンに取り組んでいた。
描き終えた後、教員による作品の講評。
「もう少し明暗をはっきりと」、「まだ表情が出ていない」。
作品への指摘に、山本さんら約30人が真剣に聞き入った。

午後は、「ビジュアルデザイン」の授業。
「大学に進み、ゆくゆくはデザイン関係の仕事に就きたい」と、
山本さんはこの日、6時間のうち4時間が「美術・デザイン系列」の授業。

別の教室では、体育教師を目指す3年の稲葉美有さん(18)が、
「点字実習」の授業で、点字カレンダーを作製。
「教師になれば、障害のある生徒と接する場合もある」
時間割の表には、体育系や手話実習など
「スポーツ・福祉系列」の科目が多く並んでいた。

自分の興味に応じて、科目を選べる総合学科は、
「バイキング形式」の学校と言われる。

7年前、普通科と工業科の2校が統合、総合学科に変わった同校。
美術やスポーツ、テクノロジーなど、5つの系列の科目があり、
その中から時間割を作る。

1年は、国語や英語などの必修科目がほとんど、
2年では週30時間のうち最大14時間、3年で22時間が選択。
「中学の時から体育教師が目標で、この学校を選んだ」と
稲葉さんは満足そう。

時間割は、前年度の秋までに作る。
計12時間のガイダンスを行い、担任と個人面談して決める。
方向性があいまいな生徒もいるため、時間をかけて取り組む。

自由に選べる一方、おいしい科目の“つまみ食い”ばかりになると
生徒の力にならない。
同校では、柱となる系列を中心に選択するように指導。

担当の本城慎二教諭(49)は、「試験のない科目など、
楽な科目を選ぶ例が少なからずある」
楽な科目の情報も、先輩から伝わってくる。

科目選びに、制約を設ける学校も目立つ。
国立教育政策研究所によると、約37%の学校で、
選んだ系列内の科目から選択。

全国で初めて総合学科になった7つの学校の一つ、
筑波大学付属坂戸高校。
03年度から、科目選択に一定のしばりを加えた。

かつて、柱となる系列を選ぶよう指導し、モデルとなる時間割を示し、
系統だった学習になるようにしてきた。
年々進学希望者が増え、好きな科目だけでは
大学受験に必要な科目を履修できないケースも。

系列を一つ選び、その中から科目を選ぶようにし、週約30時間のうち、
系列に関係なく選べるのは2年で週4時間、3年で10時間に。
変更当初は、総合学科の理念に反するといった批判も。

「確かに選択の幅は狭くなったが、失敗もなくなった。
進路の実現のため、自分で考えて決める総合学科の
根本の理念は揺らいでいない」と、小林美智子副校長(55)。

食べやすいが力にならない「おかゆ学科」との批判的な見方もある
総合学科で、生徒に力をつけさせる努力が続く。

◆「偏差値偏重」打破の期待も

普通科、専門学科に次ぐ「第3の学科」として、
総合学科が導入された背景に、高校進学率が90%を超え、
学力や進路などが多様化する生徒への対応が必要。
主体的な学びを促し、偏差値偏重の教育を打破したいという期待も。

文部科学省によると、全国に344校あり、全体の約6%まで増えた。
500校まで増やす考え。
少子化などによる学校再編に伴い、設置する自治体が目立つ。

早稲田大学の菊地栄治教授(教育社会学)は、
「教員が改革意識を持ち、行政も支援しているところは成果を上げている。
進学者が多い学校は、進学対応のため科目を減らし、
普通科と変わらなくなっている」と、現状が二極化している。

生徒の意識も変化している。
国立教育政策研究所によると、生徒が総合学科を選んだ理由は、
「やりたい勉強ができる」(約53%)、
「自由に科目を選択できる」(約49%)が上位、
いずれも1999年と比べ、10ポイント以上減少。

同研究所の屋敷和佳・総括研究官は、
「高校教育の閉塞感を打ち破った意義は大きい。
自治体の財政は厳しく、それに見合う成果かどうか検証する必要」

◆総合学科高校

国語や数学などを学ぶ「普通科」と、工業や農業などの「専門学科」の
両方の科目が学べる新しいタイプの高校として、1994年に始まった。
入学後に進路を考え、自分で科目を選ぶことができる。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20091110-OYT8T00188.htm

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