(読売 11月10日)
「自分の時間割」で学べる総合学科高校が登場し、今年で15年。
教室ごとに、生徒が多様な授業を受けていた。
東京都立つばさ総合高校の教室。
3年の山本麻代さん(17)が、選択「素描」の授業で、
石こうデッサンに取り組んでいた。
描き終えた後、教員による作品の講評。
「もう少し明暗をはっきりと」、「まだ表情が出ていない」。
作品への指摘に、山本さんら約30人が真剣に聞き入った。
午後は、「ビジュアルデザイン」の授業。
「大学に進み、ゆくゆくはデザイン関係の仕事に就きたい」と、
山本さんはこの日、6時間のうち4時間が「美術・デザイン系列」の授業。
別の教室では、体育教師を目指す3年の稲葉美有さん(18)が、
「点字実習」の授業で、点字カレンダーを作製。
「教師になれば、障害のある生徒と接する場合もある」
時間割の表には、体育系や手話実習など
「スポーツ・福祉系列」の科目が多く並んでいた。
自分の興味に応じて、科目を選べる総合学科は、
「バイキング形式」の学校と言われる。
7年前、普通科と工業科の2校が統合、総合学科に変わった同校。
美術やスポーツ、テクノロジーなど、5つの系列の科目があり、
その中から時間割を作る。
1年は、国語や英語などの必修科目がほとんど、
2年では週30時間のうち最大14時間、3年で22時間が選択。
「中学の時から体育教師が目標で、この学校を選んだ」と
稲葉さんは満足そう。
時間割は、前年度の秋までに作る。
計12時間のガイダンスを行い、担任と個人面談して決める。
方向性があいまいな生徒もいるため、時間をかけて取り組む。
自由に選べる一方、おいしい科目の“つまみ食い”ばかりになると
生徒の力にならない。
同校では、柱となる系列を中心に選択するように指導。
担当の本城慎二教諭(49)は、「試験のない科目など、
楽な科目を選ぶ例が少なからずある」
楽な科目の情報も、先輩から伝わってくる。
科目選びに、制約を設ける学校も目立つ。
国立教育政策研究所によると、約37%の学校で、
選んだ系列内の科目から選択。
全国で初めて総合学科になった7つの学校の一つ、
筑波大学付属坂戸高校。
03年度から、科目選択に一定のしばりを加えた。
かつて、柱となる系列を選ぶよう指導し、モデルとなる時間割を示し、
系統だった学習になるようにしてきた。
年々進学希望者が増え、好きな科目だけでは
大学受験に必要な科目を履修できないケースも。
系列を一つ選び、その中から科目を選ぶようにし、週約30時間のうち、
系列に関係なく選べるのは2年で週4時間、3年で10時間に。
変更当初は、総合学科の理念に反するといった批判も。
「確かに選択の幅は狭くなったが、失敗もなくなった。
進路の実現のため、自分で考えて決める総合学科の
根本の理念は揺らいでいない」と、小林美智子副校長(55)。
食べやすいが力にならない「おかゆ学科」との批判的な見方もある
総合学科で、生徒に力をつけさせる努力が続く。
◆「偏差値偏重」打破の期待も
普通科、専門学科に次ぐ「第3の学科」として、
総合学科が導入された背景に、高校進学率が90%を超え、
学力や進路などが多様化する生徒への対応が必要。
主体的な学びを促し、偏差値偏重の教育を打破したいという期待も。
文部科学省によると、全国に344校あり、全体の約6%まで増えた。
500校まで増やす考え。
少子化などによる学校再編に伴い、設置する自治体が目立つ。
早稲田大学の菊地栄治教授(教育社会学)は、
「教員が改革意識を持ち、行政も支援しているところは成果を上げている。
進学者が多い学校は、進学対応のため科目を減らし、
普通科と変わらなくなっている」と、現状が二極化している。
生徒の意識も変化している。
国立教育政策研究所によると、生徒が総合学科を選んだ理由は、
「やりたい勉強ができる」(約53%)、
「自由に科目を選択できる」(約49%)が上位、
いずれも1999年と比べ、10ポイント以上減少。
同研究所の屋敷和佳・総括研究官は、
「高校教育の閉塞感を打ち破った意義は大きい。
自治体の財政は厳しく、それに見合う成果かどうか検証する必要」
◆総合学科高校
国語や数学などを学ぶ「普通科」と、工業や農業などの「専門学科」の
両方の科目が学べる新しいタイプの高校として、1994年に始まった。
入学後に進路を考え、自分で科目を選ぶことができる。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20091110-OYT8T00188.htm
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