2010年1月7日木曜日

北の国からのメッセージ:バンクーバー冬季五輪/1 温暖化の影響ジワリ

(毎日 1月1日)

「Sea to Sky(海から空へ)」。

太平洋に面した五輪主会場のバンクーバー市内と、
アルペンスキーなどの舞台となるウィスラー市を、
約2時間半で結ぶ高速道路の愛称。
ウィスラー市を抱くウィスラー(標高2182メートル)と、
ブラッコム(同2284メートル)の両山頂に立てば、
抜けるような青空、そして山々と海を望む絶景が広がる。

年間約220万人が訪れる北米屈指のリゾート地にも、
地球温暖化の影響はジワリと出てきている。
キャリア20年の現地スキーガイド、野口英雄さん(48)は、
「雪は確実に減ったと思う。
昔は見えなかった岩も、氷河の下からのぞいている」

バンクーバー市内を流れるキャピラノ川などでも、
以前は約1000万匹は遡上してきたサケの姿がめっきりと減った。
寒さで死滅するはずの松食い虫は、冬を生き延びて森を荒らした。
市のダウンタウン西にあるスタンレー公園では、
近年の嵐で倒れた木々が今も痛々しい姿をさらす。

冬季競技にとって、地球温暖化は深刻なテーマ。
選手たちは、相次ぐ雪不足による試合中止などで、
危機を肌で感じている。
昨年2月、06年トリノ五輪モーグル女子の金メダリスト、
ジェニファー・ハイルら夏冬合わせて70人以上の
カナダの五輪選手たちが署名を集め、環境対策の充実を
バンクーバー五輪組織委員会(VANOC)に働きかけた。

VANOCは昨年6月、大会の環境問題対策として、
地元の環境コンサルト会社「オフセッターズ」と
公式サプライヤー契約を結んだ。
オ社は、二酸化炭素などの温室効果ガスを
オフセット(相殺)する方法を提案する企業。

同社の試算では、今回の五輪で排出される温室効果ガスは、
約26万8000トン。
1トンは、五輪の競泳プールの1杯分、人間が1年間暮らして生じる
ガスが約5トン、莫大さがうかがえる。
11万8000トンは会場建設、選手の移動など大会運営で発生。

オ社の役割は、排出された温室効果ガスを相殺するために
必要な資金500万カナダドル(約4億3000万円)を拠出、
五輪閉幕後に地元や世界各地の環境事業に投資すること。
「カーボンニュートラル」と呼ばれる手法。

観客や大会関係者の移動、宿泊で生じる残りの
温室効果ガスについて、五輪公式スポンサーなど25社が
相殺に取り組む。
オ社は、その方法も提言、温室効果ガス削減のための技術を
世界から訪れる人々に示して、観客に向けた啓発活動も行う。

過去の五輪でも、環境対策は掲げられた。
大会期間中の温室効果ガス排出の抑制を目指したものが多く、
大会後に遺産として残る手法は初めて。
オ社のジェームズ・タンジー社長(37)は、
「競技で、カナダが金メダルを獲得するのは難しいかもしれないが、
この取り組みは金メダルを獲得できる」と胸を張った。

地球温暖化への対策は、IOCも重要視するテーマ。
99年に打ち出した、新世紀に向けたオリンピックムーブメントの
「アジェンダ(行動計画)21」では、三つの柱の中の一つに、
「環境に配慮した大会運営」を挙げている。
この計画書は、92年、ブラジルで開かれた国連の「地球サミット」で
示された行動計画にある、「持続可能な発展」との考え方を、
スポーツ界に持ち込み、国連の助言を受けながら作成。

昨年3月、バンクーバーでIOCと国連環境計画(UNEP)との
共催による「スポーツと環境世界会議」が開かれ、
IOCのロゲ会長は、「環境はオリンピックムーブメントの重要な柱。
五輪においても、環境対策の遺産を残すことはできる」

地元の声と、世界的な流れを反映した環境保護への
取り組みこそが、バンクーバーから世界に発信するメッセージ。
VANOCで、「持続可能な発展」の分野を担当する
アン・ダフィーさんは、「カナダは、質素でおとなしく見える国だが、
考え方は持っている」

バンクーバーの動きは、すでに将来の五輪に影響を与えている。
12年ロンドン夏季五輪は、温室効果ガス排出量を算出し、
対策を具体化させることを打ち出し、バンクーバーを先例に。
次回、14年冬季五輪の開催地であるソチ(ロシア)の組織委員会も、
「バンクーバーの取り組みを発展させたい」と
VANOCなどに伝えてきている。

バンクーバー冬季五輪の開幕(2月12日)まで、1カ月余り。
静かに、しかし着実に準備を進めている北の国が、
五輪を通じて世界に発信するメッセージを紹介。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2010/01/01/20100101ddm035050088000c.html

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