2010年1月5日火曜日

設計改革 強いトヨタと技のリコー

(日経 2009-12-22)

世の中の注目は電気自動車に集まるが、
ガソリン車の燃費低減は重要なテーマ。
ガソリン車について、重要な商品特性が燃費。
設計初期段階で、少しでも燃費を改善することが、
発売後の商品力に大いに貢献する時代。

トヨタ自動車は、2008年秋以降、燃費の低減を設計初期に
製品に造り込む手段として、「形の決まっていない段階で、
燃費を検証する解析計算」(トヨタ自動車第2技術開発本部
エンジンプロジェクト推進部エンジン計画室シニアスタッフ
エンジニアの沢田龍作氏)を使い始めた。

エンジン設計上のパラメーター(ボアやストローク、圧縮比など)を
設定、燃費がどうなるか、発生する力や排気の状況がどうなるかを
計算するシステムを開発。
エンジン周りの構想設計に使用。

形が決まっていない段階だから、3次元モデルはなく、
3次元解析のような時間のかかる計算は、設計初期段階に向かない。
エンジン各部の働き、燃焼状況、給排気における熱の出入り、
機構の摩擦によるエネルギー損失などを数式で表し、
すばやく計算するモデルを作り上げた
(燃焼状況の解析のみ、燃焼室形状の3次元モデルを利用)。

設計パラメーターを調整していくと、
「ちょっとやるだけで、何%も燃費が良くなる」(沢田氏)。
詳細設計段階や試作段階で、「思ったより燃費が悪い」と
関係者が悩むことはなくなる。

商品力が高く、より多く売れるということは、
それだけコスト低減効果が増幅すること。
1個2円のコスト低減で100個売れたときより、
1個1円のコスト低減でも300個売れる方が、低減額は大きい。

リーマン・ショック以後、設計陣にも単なるコスト低減より、
商品力を強化することの支援が強く求められる。
製品全体を左右する設計初期段階が重要。

最近の設計改革のポイントは、試行錯誤をどう位置付けるか?
試行錯誤は、良く表現すれば「新しい案を次々と試していく」こと、
悪く表現すれば、「考えても分からないから、作って様子を見る」こと。
3次元CAD(コンピューターによる設計)を使っても、
試作が実物ではなくバーチャルだというだけで、
基本的に試行錯誤に頼っている。

試行錯誤は、ムダな案をたくさん作ることでもあり、
基本的に効率が悪い。
(1)筋道を立てれば分かることは、試行錯誤を避ける、
(2)試行錯誤が必要な場面、なるべく効率的に実行する、
(3)全く新しい方式や技術を開発するとき、
積極的に試作と試行錯誤を実行する——
というメリハリが重要。

トヨタ自動車の例は(2)に当たり、(1)に取り組む企業も。
その1つがリコー。

リコーの開発革新センターは、設計手順に沿って、
設計者の業務を支援するITシステム
「EAST(Engineering Assisting System)」の
整備を進める。

このシステムは、所定の手順に従って作業内容(何を決めるか)を
順番に設計者に示し、同時に設計者が利用すべき情報
(作業の入力情報)を提示。
結果、決めた情報(作業の出力情報)もシステムが管理
(設計者が、EASTに入力)。

システムの目的は、設計検討の順番や計算やシミュレーションに使う
ツールなど、設計者間で統一、品質を確保すること、
設計で用いる情報を探し回ることなく、誰もが同じ情報を参照できること。

EASTの前提が、設計手順の詳細な定義。
「定着ローラの設計手順」のように、設計者が実行する
仕事の単位ごとに、作業内容を細かく決める。
各作業で何を決めるか、何の情報を使うか、
どこにあるか、を明らかにしておく。

設計の大部分は、繰り返し作業である。
「製品開発に、100%新規に設計することはめったにない。
既にある製品の10~20%を、新しいものに切り替え、
残りは既存のものを一部変更して流用。
流用設計に、やるべきことは決まっていて、そこを最短距離で走り、
新しい10~20%の部分に頭を使ってもらうのが目的」
(リコー開発革新センター副所長の佐藤敏明氏)。

繰り返し部分が対象といっても、効果は大きい。
カラー複写機で、色ずれがないよう位置を合わせる機構の
設計作業は、予定時間の10%程度で終わった。
他の仕事でも、50%程度削減できる例が多い。
「設計者が無用に迷ったり、情報を探したりすることがない」(同氏)。

(3)のような、まったく新しいことを考えられる場面でも、
行き当たりばったりに作業を進めてよいわけではない。
まずは、ポンチ絵で考えをまとめる。
ポンチ絵に、なぜその形状にしたか、なぜその材質にしたか、
といった設計思考や背景情報をすべて書き込む。

現在、この段階にITはあまり使わない方がよい。
CADでは、設計案の最終形は表現できるが、
そこに至る思考や背景の情報は扱いにくい。
ポンチ絵を書きながら全体を構想できる技術者が少ないことが、
多くの企業で課題に。
一部の企業では、構想設計に焦点を当てた教育制度を発足。

これらの取り組みは、実は「設計とはどうあるべきか」という、
哲学的ともいえる命題。
長期的展望に立って考えていくべきテーマだが、
大不況によって加速。
考えて手を打ってきた企業が、今後有利になっていく。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/mono/mon091221.html

0 件のコメント: