2010年1月6日水曜日

特集 健康を考える 骨粗鬆症 大阪市立大大学院医学研究科・小池達也准教授に聞く

(2009年12月27日 毎日新聞社)

高齢化に伴って、約1000万人の患者が存在、
治療を受けているのは、うち約300万人--。
中年以上の女性患者が多数を占める「骨粗鬆症」。

病名が知られ始めたのは約20年前、
検診を受ける人は今もなお少ない。
大阪市立大大学院医学研究科の小池達也准教授に、
骨粗鬆症の症状、治療、予防などを聞いた。

--骨粗鬆症は骨がもろくなる病気、と。

小池 骨粗鬆症の「鬆」は、大根の「鬆(す)」と同じ意味、
骨の密度が薄くなる、骨の量が減る病気と理解。
患者は、閉経後の高齢女性が多く、男性は比較的少数。
骨量の減少には、加齢現象の一面もあり、過度に減ると骨折。
骨粗鬆症患者の大腿骨骨折は、年間12万件に及ぶ。

--痛みや運動障害などの症状は?

小池 骨粗鬆症には自覚症状がない。
知らずに放置し、転んだ時などに突然骨折に見舞われる。
骨折の部位は、股関節、背骨、上肢など。
ソファに座った途端、寝床から起き上がった瞬間の骨折も。

--発症が中年女性に多い理由は?

小池 女性は、閉経をはさんで女性ホルモンの分泌が急減。
その結果、骨を作る「骨芽細胞」と、吸収する「破骨細胞」の
バランスが崩れ、骨の形成が吸収に追いつかなくなって
骨の密度が低下。
カルシウムなど、骨形成に役立つ栄養分の不足なども。
個人差があるが、高齢女性はリスクが高い。
関節リウマチや糖尿病、甲状腺関連の疾病に伴って
発症する骨粗鬆症もある。

--骨折でやっと病気に気付く、というのは困りもの。

小池 知らずに腰の骨が徐々につぶれる「脊椎圧迫骨折」という
症状も多く、骨折した人の死亡率が健常者の4-5倍。
病名が知られだしたのは、骨量計測が一般的になってから。
当初アイソトープを用い、1-2分で終わるレントゲン検査が普通に。
骨量検査で、正常値を100として80以下に骨量が減ると
「骨減少症」、70以下だと骨粗鬆症と診断。

--この20年、骨粗鬆症の検診体制は?

小池 政府も医学界も、検診体制の整備と受診の勧めを
ずっと訴えている。
自治体や医療現場では、切迫感が希薄、他の疾病の検診と比べ、
優先順位が低いという判断から、検診機器の導入が遅れ、
受診率は今も低迷。

--日常的に可能な予防法は?

小池 カルシウムの摂取は、骨粗鬆症予防に限らず、不可欠。
日本人の栄養分摂取で、先進各国と比べ、
摂取量が唯一少ないのがカルシウム。
心掛けたいのは、食品で最もカルシウムを含む牛乳の摂取。
1日に必要なカルシウムは600mg、牛乳には1mlに1mg含まれる。
バターやチーズなどの乳製品でも可。
ヒジキなどの海藻類、じゃこなどの小魚にもカルシウムは多い。
菓子類は、リンを多く含み、消化の過程で
カルシウムの吸収を妨げ、多食は厳禁。

--骨は強くできるものでしょうか?

小池 柔道やラグビーに励んできた人は、
一般に水泳選手などより骨が丈夫。
中高年になって急に運動を始めても、足腰に無理がくるだけ。
女性に多い疾病という現実を踏まえれば、
まず体を動かすこと、歩くこと。
患者さんが転ぶのは、自宅内が多い。
すり足で歩き、畳の縁に引っかかって転倒したりする。

--不安な人は?

小池 生活面で心掛ける一方、気になる方は検診を受け、
専門医に相談なさるのがいい。
骨が過剰に代謝されていないかを調べる血液・尿検査も。

--治療は?

小池 骨折は、整形外科で対応、骨粗鬆症そのものの治療は
服薬が中心。
更年期障害の治療で用いる女性ホルモンのほか、
ビタミンD、ビタミンKなどがよく使われる。
近年、「ビスフォスフォネート」という破骨細胞を抑え、
骨量増加や骨折抑制作用を持つ薬もあり、顕著な効果。
服薬では、副作用もあり、治療前に専門医と話し合うことが大切。
ビタミンDは、魚のはらわた、ビタミンKは納豆に多い。
納豆の消費は関西では少なく、骨粗鬆症の発症も「西高東低」。
因果関係は立証されてはいないが……。
転倒した際、衝撃を吸収して股関節を守る「ヒッププロテクタ」という
装身具も市販。
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◇こいけ・たつや

1982年大阪市立大医学部卒。同整形外科助手などを経て
96-98年、米国マサチューセッツ総合病院・
ハーバード大医学部客員助教授。
2002年から現職(07年まで助教授)。
日本リウマチ学会評議員、国際骨ミネラル代謝学会会員など
加入学会多数。第12回理学療法ジャーナル奨励賞、
日本骨代謝学会学術賞、日本骨粗鬆症学会奨励賞、
大阪市医学会市長賞など、受賞も多数。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2009/12/28/113780/

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