2010年1月9日土曜日

北の国からのメッセージ:バンクーバー冬季五輪/3 先住民、主体的に参加

(毎日 1月4日)

聖火リレーは、世界で2番目に広いカナダの国土を一周、
五輪が開幕する来月12日に、バンクーバーに戻ってくる。
国内ルートでは、過去最長の4万5000キロ、
約1万2000人の走者でつなぐ旅は、200以上の民族が暮らす
カナダの文化をめぐる旅。
聖火は、ある時は先住民のカヌーが運び、
ある時は犬ぞりに乗ってつないできた。

五輪組織委員会(VANOC)は、今大会の理念に
先住民の参加を掲げる。
IOCが、99年に策定した五輪運動の「アジェンダ(行動計画)21」
で促した「先住民参加」の理念を反映。

カナダの先住民は、かつてインディアンと呼ばれた
「ファーストネーションズ」、同じくエスキモーといわれた「イヌイット」、
欧米人との混血(メティス)を指す。
今大会では、バンクーバー周辺に居住区がある「マスクエアム」と
「ツレイル・ウォウトゥス」、ウィスラー周辺の「スコーミッシュ」と
「リリワット」の4部族の先住民が参加。

先住民は、19世紀半ばに定められた法律によって、
政府から居住地への移住と、強制的な英語教育による
同化政策を強いられた、いまいましい過去を持つ。
政府が公式に謝罪したのは、なんと一昨年。
五輪準備のために設立された4先住民協会の
テワニー・ジョセフ最高経営責任者(CEO)は、
「悲劇的で恥辱にまみれた歴史だった。
経験した者は、一生かかっても癒やされるものではない」
スコーミッシュ族出身ながら37歳のジョセフCEOは、
直接差別された記憶はないものの、過去の歴史の話を
口にするときには、目に怒りの色が浮かぶ。

先住民への差別的政策は、世界各地に残る負の側面。
00年シドニー五輪では、オーストラリアの先住民アボリジニが
参加して融和を唱えた。
02年ソルトレークシティー五輪でも、先住民への配慮が。
式典の出席など儀礼的なことが多く、
VANOCがIOCに先住民参加を持ちかけた際も、
「飾りではないのか」と、真意をただされた。

今回、羽根飾りのついた民族衣装など独自の文化を
紹介する点では、これまでより規模が大きくなっただけ。
先住民が主催者の一員となり、政府、バンクーバー市などと
同じ立場で関連施設の建設に携わるなど、
五輪に主体的にかかわったことが、過去よりも踏み込んだ点。

何より心の問題として、一般のカナダ人と同格に扱われ、
互いに尊重しあったことが大きい。
ジョセフCEOは、「我々の文化では、『7世代先のことを考える』と言う。
20年後に、『私たちの付き合い方は五輪で変わった』と、
振り返ることができれば最高だ」

カナダは多文化国家。
フランス系住民が多いケベック州では、今も独立機運がくすぶる。
五輪への先住民の参加が、モザイクと言われる国内の民族融和の
先例となることを、VANOCも、4先住民協会も望んでいる。
VANOCのジョン・ファーロングCEOは、
「聖火リレーで、国民はカナダの一員であることを実感しているはず」

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2010/01/04/20100104ddm035050069000c.html

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