2010年1月18日月曜日

研磨極める大津技研「工程を壊せ」

(日経 2010-01-05)

研磨という、地味な業界で究極の生産性を追求する会社。
熊本県の大津技研(大津町、木村幹男社長)。
同社を引っ張ってきたのは、専務の木村哲也氏(43)。

溶かした金属を、金型に注ぎ込んで作る自動車用ダイカスト部品。
これが、大津技研の工場にどんどん運び込まれる。
工場では、ダイカスト部品の製造時にできたバリを、
タガネやヤスリで取り除く。
高速回転するグラインダーで羽布(バフ)加工、表面を磨き上げる…。

同社には、際立って異なる点。
手を止めている作業者が皆無であること。
朝から晩まで、部品の流れが瞬時も滞ることがない。
同業者も、全国から見学に来て、効率のよさに一様に驚く。

秘訣は、各々の従業員の作業時間を徹底して
均等にしていること。

ある作業者が、どのバリをタガネで落とし、
次の人は別のどのバリに電動ヤスリをかけるか—。
作業の配分を工夫するほど、時間の無駄はなくなる。

「工程は壊せ」。
こんな発想も打ち出す。
決めた作業分担でも、実際にやってみて、
作業時間にデコボコができることがある。
予想外に時間のかかる工程の前工程の従業員は、
無意識のうちに動作を遅らしがち。

前工程の従業員には手を緩めさせず、
あえてラインの中に“滞貨”を作る。
ボトルネックとなる場所を早期に発見、管理職が応援に入るなど
ラインスピードを落とさないよう対応。

時には、部品の渡し方も変更する。
次の従業員がすぐに作業に入れるよう、部品の上下、裏表を
考えて手渡すのが基本マナー。
ある工程の時間が標準以上にかかる際、
マナーにはこだわらず、一番時間のかからない方法で部品を渡す。
次の従業員は、ヤスリがけに入る前、部品をひっくり返す動作が
必要になるが、待ち時間はなくなり流れは止まらない。

同社が優れているのは、一人ひとりの従業員の能力を
見極めて配置を決めること。

すべての工程の作業時間を完全に同じにでき、
すべての従業員が同じ時間である工程をこなせるのが理想。
能力に応じて、工程の分担を変える。
ある従業員が休んだ場合、代打の人の能力に応じて分担を変える。

機械と人の関係も工夫。
バリ取りロボットも導入。
ダイカスト部品は、製造時の状況や金型の経年変化で、
ほんのわずかだが形状が変わることが多く、
それに応じてロボットへの指示も年中変える必要。

同社は、形状が変化しにくい部分だけはロボットで加工し、
変化しやすい部分は人の手で処理する仕組み。
ロボットに入力し直す手間と時間は不要。
ロボットと人の作業に、必要な時間をすり合わせ、
双方の待ち時間をゼロにすることは同じ。

ロボット以外に、簡単なバリ取り専用機も自社開発。
市販の数値制御装置付きの工作機械を使う手もあるが、
あまりに高価。
バリ取り専用の安価な装置を設計。
自動車産業の振興を狙う熊本県は2005年、
この装置の開発に、500万円の補助金を支給。

研磨業界は賃加工。
納入先に見積書を出す際、部品1つの研磨にかかる作業時間と、
賃率(労賃の秒当たりの単価)を提示。
「ウチの賃率を見て、『普通の会社と比べかなり高い』と
不満を漏らす購買担当者もいる」と木村専務。
そんな時、「作業時間も見てほしい。他社の半分でしょ」と答える。

見積金額は、時間と単価の掛け算。
「結局、ウチの方がはるかに安い」。
大津技研は、際立つ生産性の高さを武器に伸びてきた。
ホンダの協力工場としてスタートしたが、
2000年から、ヤマハ発動機の熊本の生産子会社から注文。

自動車産業では、「系列」がやかましい。
ホンダとヤマハは、1980年代に激しい二輪車戦争を繰り広げた。
系列を超えた取引は、当時の新聞で大きく取り上げられた。

同社にとって、「時間単価の高さ」にも大きな意味。
きめ細かな工程管理は、現場の従業員が相談、生み出している。
従業員は毎日、きめ細かな日報をつけ、作業班ごとの
売上高と収益性を自らチェック。
従業員の高い士気は、「高い時間単価」が支える。
高い士気が、「高い時間単価」を生むという好循環に。

なぜ、こんなユニークな会社が育ったのか?
日本の下請け、賃加工の業界では、大津技研のまったく逆、
「激しい競争→納入価格の切り下げ→賃下げ→従業員の退職→廃業」
というコースをたどる会社が相次ぐ。

木村専務は言う。「『バトンをつなぐ』。この思いだけだった」
同社は、社長で父親の木村幹男氏が、
「他の仕事の片手間に」85年、創業。
92年、同社の経営を全面的に任せていた人が突然、退職。
当時、25歳で地元の会社に勤めていた哲也氏が、
赤字に陥っていた同社すべてを切り盛り。
従業員は9人。
取引先との交渉はもちろん、製品の納入から現場の作業まで、
文字通り寝る間もなく走り回ることに。

研磨の仕事を全く知らなかった哲也専務は、
「どうやって生産性を上げるか」の一点を、従業員と試行錯誤。
まったくのゼロからのスタート。
不良を出すたび、納入先からは「(ホンダ発祥の地)浜松
(の下請け)は、こんなもんじゃないぞ」とレベルの低さを指摘、
唇をかみ締める日が続いた。
「今から考えると、よく倒れなかったと思う」
30歳、工場の現場で働いていた父親は、もう現場は見ない、と。
「任せても大丈夫、と思ったのでしょう」。

現在、従業員は約90人。
昨年からの大不況で仕事は減ったが、派遣労働者を含め、
人員整理はしていない。
日本の組み立て産業が、海外にどんどん移る。
研磨の仕事が、これから拡大するとはとても思えない。

最近、同社は林業に進出。
山奥から木を切り出す仕事。
「日本の林業は、コスト高で立ち行かないといわれている。
研磨で練り上げた生産性向上の手法を使えば、必ず突破できる」

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/mono/mon091224_2.html

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