(2010年1月12日 共同通信社)
ダチョウの卵から、新型インフルエンザなどのウイルス抗体を
世界で初めて開発した、
京都府立大教授の塚本康浩(41)。
抗体を使ったマスクは6千万枚売れ、文字通り「金の卵」に。
病気やけがを物ともしないダチョウの「鈍感力」を愛した男は、
逆境をひょうひょうと生き抜いてきた。
▽テーマは後付け
身長2・5メートル、体重150キロ超。
時速60キロで走る最強の鳥類、ダチョウ。
寿命は60年、重傷も数日で治る生命力も持つ。
「あの巨体で、脳みそはネコなみの小ささ。
とてつもない力があるのに、アホゆえに日陰の道を歩んできた。
そこが面白い」
のんびりした風ぼう、口調。
少年時代から鳥好きで、最初はニワトリの専門家に。
大学というヒトの群れに息苦しさを感じ、
神戸市のダチョウ牧場に入り浸るように。
何も考えずに走り回るダチョウに、心がいやされた。
「眺めているうちに、飼いたい気持ちを抑えられなくなって。
研究テーマは後付けで考えた」
▽コロンブスの卵
当時、鳥インフルエンザの世界的流行が始まっていたが、
免疫力の強いダチョウの感染例はほとんどなかった。
「血液からウイルス抗体を作ろうと。
実験には、多くのダチョウを殺さないといけない。
大変な作業の割に、取れる抗体もわずかだった」
行き詰まる研究。
協力していた牧場も、ダチョウ肉が全く売れず閉鎖を検討。
孤立無援の状況だったが、塚本の心は折れなかった。
「卵を使ったらどうや、とひらめいた。
鳥は、抗体を卵の中にも作る。
ダチョウの卵は巨大で、年100個も産むから、
大量の抗体が取れる」
鳥インフルのウイルスを雌に注射し、卵の黄身から抗体を抽出。
「コロンブスの卵」のアイデアを、2年がかりで実現。
▽大変な方がおもろい
最終実験を行ったのは、鳥インフルが猛威をふるうインドネシア。
現地の研究所で、ウイルスに感染したひよこに、
ダチョウ抗体を注射。
3日後、研究所に戻ると、助手が弾んだ声で叫んだ。
「先生、全部生きてますわ!」
研究成果を知った企業から、オファーが次々舞い込んだ。
クロシード(福岡県飯塚市)と昨年開発したマスクは、
表面に新型インフルに対応するダチョウ抗体を塗り、ウイルスを阻止。
爆発的ヒットに。
フィルターに抗体を塗った空気清浄器も、富士フイルムと開発。
「ダチョウは、飢えて命の危険を感じるときの方が卵を多く産む。
人間も、大変な時代の方がおもろいビジネスが出てくる」
今、完成を目指しているのは、
鳥インフルのワクチンと肺がんの特効薬。
ダチョウは人類を救うのか-。
そんな期待をよそに、彼らはきょうも気ままに走り回っている。
※塚本康浩氏略歴
68年京都府生まれ。大阪府立大卒。
同大准教授を経て、08年から現職。
獣医師で、ダチョウ製品を開発する企業も経営。
http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/1/12/114242/
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