2010年6月7日月曜日

インサイド:五輪ボイコット30年・第2部 政治に敗れたJOC/1

(毎日 6月1日)

東西冷戦下の1980年、ソ連のアフガニスタン侵攻に
反対する米国が、西側諸国にモスクワ五輪ボイコットを
呼び掛け、JOCは日本政府の圧力に屈し、不参加を決定。

当時の舞台裏と、ボイコットが残したつめ跡を振り返るとともに、
五輪にかけてきたアスリートを守りきれなかった
JOCに突きつけられた課題を30年後の今、再検証する。

30年前の80年5月24日、岸記念体育会館地下3階。
JOC臨時総会で、日本バレーボール協会の専務理事だった
松平康隆・現名誉会長(80)
は、モスクワ五輪参加の
是非を問う多数決で、「参加すべし」に手を挙げた。
結果は、「不参加やむなし」29票、「参加すべし」13票、
棄権が2票。
五輪参加は、「幻」と消えた。

午前中の日本体育協会臨時理事会には、
五輪参加は望ましくない、との見解を表明していた政府から、
伊東正義・官房長官、柳川覚治・文部省体育局長も出席。
補助金削減をちらつかされた体協は、
「JOCが、ナショナルエントリー(国別申し込み)を
提出することに反対する」ことを決議。

JOC総会は、その日の午後に行われたが、
当時、JOCは、体協内の一委員会だった。
体協理事会の決定は重かった。

政府の人間が高いところから見下ろし、五輪参加を主張する
団体には、目にもの見せてやるといった感じだった。
バレー、特に女子は金メダルを取れる可能性があった。
政府が補助金をカットするなら、
海を泳いででも行かせてあげたかった」

松平さんは、JOCが不参加を決定後、IOC本部のある
スイスを訪れ、キラニン会長に個別参加を打診。
既にIOCは、個別参加を認めない方針を決め、
キラニン会長の反応は冷淡だった。
返ってきたのは、「検討する」というあいまいな答えだけ。

幻の女子バレー、モスクワ五輪代表、
中島(旧姓・広瀬)美代子さん(51)は、五輪不参加の知らせを
合宿先の北海道別海町で聞いた。
「合宿は中止になって、釧路湿原や美幌峠を観光した。
夜は残念会。みんな泣いていたのを覚えている」

広瀬さんは、名門ユニチカに入部後、下積みを重ね、
世界屈指のレシーバーに成長。
現在、バレー教室で子供たちを指導する広瀬さんは、
「子供からの夢だった金メダルが、すぐそこにあったのに」と回想。

84年ロサンゼルス五輪には出場、銅メダルに終わり、翌年引退。
日本バレーはその後、男女ともメダルから遠ざかる。

松平さんには、忘れられない思い出がある。
72年ミュンヘン五輪、イスラエル選手団がパレスチナ・ゲリラの
襲撃を受け、計17人が死亡。
大会中止か続行かで意見が分かれる中、
IOCのブランデージ会長にコーヒーでも飲もうと誘われた。
松平さんは、全日本男子の監督だったが、以前から親交があった。

ブランデージ会長は言った。
「私は、世界中から袋だたきに遭うだろう。
しかし、100年後には称賛されると思っている」
政治とスポーツの分離を主張する会長は、大会再開を決断。

人権や民族問題の観点から、歴史的評価は分かれる
ブランデージ氏だが、ナチス政権下の36年ベルリン五輪で
ボイコット運動が起きた際、米国オリンピック委員会の会長として
選手団派遣を進めた。
75年に他界、カーター米大統領のボイコット呼び掛けで、
世界が揺れたモスクワ五輪の時、既にこの世にはいなかったが、
松平さんは、「彼なら自分の国の大統領にも、きっと盾ついたと思う」

モスクワ後、五輪の在り方も変わった。
キラニン氏の後、IOC会長に就任したサマランチ氏は、
プロ化を促し、商業化路線を推し進めた。
一方で、ドーピング(禁止薬物使用)など負の側面も。
「五輪の成功が大きいほど、商業主義と政治の介入は大きくなり、
“オリンピック”は魔力を持った言葉になる」
ミュンヘン五輪の最後に、ブランデージ氏が残した警句だ。
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◇1980年モスクワ五輪ボイコットの経緯◇

1月 4日 カーター米大統領が、ソ連のアフガニスタン侵攻に対する
       制裁措置として、五輪ボイコットの可能性を表明
4月12日 米国オリンピック委員会が、総会で五輪不参加を決定
4月21日 競技団体のコーチが発起人となったコーチ団会議で、
       レスリングの高田裕司が涙で五輪参加を訴える
4月25日 日本政府が、五輪参加は望ましくないとの見解
5月24日 日本体育協会臨時理事会で、五輪参加反対を決議。
       JOC臨時総会では多数決の結果、不参加が決まる
7月19日 モスクワ五輪開幕。80カ国・地域(IOC加盟約140)が参加、
       米国、日本、西ドイツなどが不参加

http://mainichi.jp/enta/sports/general/news/20100601ddm035050155000c.html

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