2010年6月11日金曜日

(鳥取)地方を生きる 第4部<1> 医の最前線で--鳥取県日南町から

(2010年6月1日 読売新聞)

医療現場が疲弊している。
深刻な医師不足で、特に自治体病院の経営は苦しい。
平成に入り、全体の7%にあたる約80か所が閉院。
地方の実態を伝える連載「地方を生きる」第4部は、
鳥取県日南町の国保日南病院からの報告。
命にかかわる地域医療をどう立て直すか?
医師や看護師らの取り組みを通し、考えたい。

「黒字経営の秘密を教えて下さい」
山間部に立つ国保日南病院には年に5、6度、
各地の公立病院関係者が視察に訪れる。

昨年度の経常収支は、7900万円の黒字。
27年連続の黒字達成。

町立病院として、1962年開院。
他の公立病院と比べ、恵まれているわけでもない。
人口5800人の日南町は、65歳以上が半数近い過疎の町。
常勤医の確保は難しかった。
院長不在で、2000万円以上の赤字を抱えたことも。

その病院を変えたのは、この町出身の前院長、
安東良博さん(71)。
「古里に戻ってくれ」
町長らの説得を受け、82年、院長に就任。
県の健康増進施設の所長だった安東さんには、
糖尿病の研究者になる夢。

町の保健センター所長も兼任する条件に、心を動かされた。
住民の病気の予防や健康づくりも一緒に行える。

厳しい現実が待っていた。
常勤医不足に不安を感じ、町外の病院に通う住民も多かった。
50床のベッドは、自宅療養が難しい長期入院患者が占めていた。

何からやるか?
安東さんが手がけたのは、往診だった。
「町内は広くて、病院まで遠い人もいる。
寝たきりの高齢者ら、病院に来られん人が多かったのでね」

往診の有り様は、一人の女性宅の訪問を境に変わる。
「薬だけください。私は長いこと風呂に入っていない。先生に悪いので」
寝たきりの女性にそう言われた。
入浴の福祉サービスがなかった時代。

「皮膚の清潔は、医療の基本。お風呂に入れてあげんとなあ」
安東さんの発案で、看護師らが折り畳み式の浴槽を携え、
高齢者宅を回り始めた。

患者に親身に当たる姿勢が伝わり、外来患者が増え出す。
往診の充実で、家でも療養できると考えられ、長期入院も減る。
人件費を中心に経費節減など経営改善にも努め、
院長就任から1年で黒字に転換。

日南病院の玄関には、〈町は大きなホスピタル〉とする
院是が掲げられている。
「町の道路は病院の廊下、各家庭は病院のベッドと考えた。
入院患者のナースコール同様、各家庭の電話で、医師が出向く。
これが信頼を築いた」
いまは病院事業管理者に就いている安東さんが語る地域医療の原点。

◆国保日南病院

国民健康保険事業の一環で町が開設。
内科、小児科、外科、整形外科、眼科、耳鼻咽喉科の6診療科。
ベッド数は一般病床59、療養病床40の計99床。
院長を含む常勤医師は6人。
看護師35人、准看護師10人が勤務。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/6/1/121062/

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