(毎日 5月24日)
料理研究家の土井善晴先生に誘っていただき、
早稲田大学「食の文化研究会」が定期的に開催している
研究会に、コメンテーターとして参加。
毎回、食の職人が講演、5月は東京・浅草にある佃煮の老舗
「鮒佐」のご主人、五代目佐吉さんがお話。
驚いたのは、佃煮を作っている最中は、
一度も味見をしないというエピソード。
味見をすると、その時の体や気候のコンディションに
引きずられてしまうから。
自分を信じて、いつもの仕事を、いつも通りすることが大切。
これは、まさにトップアスリートのセリフと同じ。
道を究めた人は、同じ心境にたどり着くようだ。
余計なことはしないで、伝統の味をただ守り続けるのが
自分の仕事とも語っていた。
お店で作っているあさりの佃煮をいただいた。
口に含むと、まずしょっぱさを感じるが、そのあとに旨みがあふれ、
ジワッと唾液が出てきた。
司会の学生が、「すごくごはんがほしくなりました」と感想、
これは単にしょっぱかったからではなく、
伝統の技が生む滋味を感じたから。
唾液の中には、糖質の消化酵素であるアミラーゼが含まれている。
唾液がジワッとあふれる佃煮で、ごはんを食べることは、
ごはんがおいしくなるだけではなく、
ごはんの消化もよくして食べられる。
ご主人はいった。
「しょっぱいでしょう。
でも、佃煮はいっぱい食べるものではなく、脇役なんで、
この味だと思うんです」
佃煮を、100gあたりで塩分が何g入っている、というとらえ方を
してしまえば、塩分は高すぎる。
食べ方というのは大人の判断。
伝統がはぐくんできた食べ物を、塩分の数値だけで評価するのは
悲しいことだと思う。
食べ過ぎの責任を食べ物に押しつけるのは、食べ物に失礼だ。
伝統は、食べ方さえ教えてくれる。
【海老久美子・立命館大学スポーツ健康科学部教授】
http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2010/05/24/20100524dde035050038000c.html
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