2010年6月12日土曜日

世界一、水水しい国、日本へ 第4回・企業編

(日経 5月31日)

第3の第3のエネルギー革命。
水素の時代を前にして、
我々は躊躇するのか、
先頭走者を目指すのか。
 
◆「C からH へ」 渡文明(73)新日本石油会長

今、世界のエネルギー事情は、第3の変革期を迎えている。
第1の変革は、木炭のような手近にあるエネルギーを使っていた
時代から、地中に眠る化石資源、石炭を利用し始めた時代。

第2の変革は、石炭から石油へ主役交代した時代。
私が入社した1960年は、この変革の真っ最中で、
「石油の時代」の到来。

今、第3の変革期にさしかかりつつある。
これまで人類は、石油や石炭に含まれる炭素(C)を燃やして、
発電したり、暖をとったり、クルマを走らせたりしてきた。

それが、地球環境問題という大きな制約に直面。
私たちは、新たなエネルギーを見つけなければならない。

そこで、浮上してきたのが水素(H)。
エネルギー密度が高く、しかもほぼ無限に存在、正しく扱えば安全。
その水素を、効率よく作って利用できる技術を開発すれば、
日本は「第3のエネルギー革命」の先頭走者に躍り出る。

幸い、日本には蓄積がある。
水素を利用して、電力をつくる家庭用燃料電池
火力発電などの従来方式と違い、家庭内で発電するため、
送電によるロスが生まれない。
排熱を給湯などに利用することもでき、発電所でつくられた
電力を家庭に送るよりも、はるかにエネルギーの利用効率が高い。

日本は、この分野で技術や人材の厚みがある。
当社も、まだ石油の需要減が顕著となる前から、
このような分野の研究に力を入れてきた。

中国やインドのような新興国でも、
水素を使った小型発電の需要が期待。
中国の地方部では、電話は固定電話でなく、
最初から携帯電話が普及。
インフラが整っていない新興地域ほど、送電網などを築くのは難しく、
分散型の発電設備の方が適している。

必要な機器やノウハウ、人材を私たちが供給すれば、
日本の成長戦略にも直結。

水素の応用範囲は、みなさんが想像される以上に広がっている。
自動車の動力源に使えば、排出物が水だけという
究極のエコカーが誕生。
年間を通して、風が強い南米のパタゴニアのような場所で
風力発電を行い、その電力で水を電気分解し、
水素の形でエネルギーを日本が輸入する壮大な構想も。

水素をエネルギーの主役に据えることで、
中東に偏在する石油の時代より、
日本のエネルギー安全保障は高まる。

「石油会社が水素社会にかじを切るのは、
自己否定ではないか」とよく言われる。
しかし、当社は石油会社である前に、エネルギー会社。
これから世界の化石燃料の消費量は減っても、
エネルギー消費の総量は決して減らない。

「我々は、未来型のエネルギー企業として会社の骨格を変えよう」
社員には、日ごろからこう呼びかけている。

「CからHへ」――。
変革は大きな挑戦だが、それは同時に大きなチャンス。
水素の時代を前にして躊躇するのか、
積極的に前に乗り出すのか。
日本は、選択を迫られている。

◆「水素、地球環境問題の切り札に」(編集委員から)

水素と聞いても、「むかし理科の時間に習ったな」程度の
感想しか浮かばない人が多い。
原子番号「1」のこの物資は、万物の母ともいえるすごい存在。
私たちが日々その恵みを受けている太陽エネルギーは、
水素の熱核融合によって発生。

この水素を、今度は地球環境問題の切り札に活用しようという
機運が高まってきた。
世界の自動車メーカーは、「究極のエコカー」と呼ばれる
水素を利用した燃料電池車に注目、
2015年を期して本格普及に乗り出す計画。

製鉄会社は、地球温暖化の元凶であるCO2排出を
大幅に減らす「水素還元」という技術の実用化を急いでいる。
水素を発電に使えば、分散型のより効率的な発電システムが実現。
本格的な水素社会を実現するためには、課題も。

今の水素供給コストは、ガソリンの約2倍、低廉化が不可欠。
水素を安全かつ効率的に「貯蔵」、「輸送」、「充てん」する

技術の開発も必要。
世界を見渡しても、石油メジャーなど水素エネルギーの開発に
取り組むライバルが数多い。

2020年、日本が「水素革命」で世界をリードするためには、
技術開発を主導する企業と、それを支援する政府、
国民の理解が欠かせない。

単に水素社会を「夢物語」として描くだけではなく、
実現に向けての障害を、私たちが一つひとつ
取り除いていかなければならない。

水素の技術革新で世界をリードし、地球環境問題に貢献する――。
地球が瑞々しく、自然豊かな星であり続けるたけに、
私たちは社会の様々な場面で、水素の活躍する
「水水しい国」づくりに踏み出すとき。

http://www.nikkei.com/news/topic/article/g=96958A88889DE2E5E5EAE0E4EAE2E0E2E2E7E0E2E3E2E2E2E2E2E2E2;q=9694E3E5E2E7E0E2E3E2E0EAE4EA;p=9694E3E5E2E7E0E2E3E2E0EAE6E7;n=96948D808D9F9B80939B8D8D8D8D;o=9694E3E2E2E7E0E2E3E2E0E2E7E3

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