2010年6月9日水曜日

スポーツ政策を考える:桂充弘・弁護士

(毎日 5月15日)

日本のスポーツ行政の中で、スポーツ事故への対応が
遅れているのではないか、という疑問。

どんなに安全なスポーツを心がけても、スポーツの性質上、
一定の割合で事故が発生する事実が統計上認められる。
事故の被害者へのケア、再発防止のための原因究明、
情報公開をしっかりすることを考えるべき。

大阪府高槻市で開催されたサッカー大会で、
落雷に遭い重度の障害を負った元高知・土佐高生と
家族が約6億4600万円の損害賠償を求めた訴訟で、
高松高裁は2008年9月、学校と主催者の高槻市体育協会の
過失を認定、約3億円を賠償するよう命じた。

判決は、落雷に関する知識が乏しく、事故を予見すべき
注意義務を怠り、回避のための措置をとらなかったとして、
落雷事故で、学校側の責任を初めて認めた。
被害者の保護という点は画期的な判決だったが、
指導者からすると、そこまで責任を負わなければいけないなら
指導はできない、という思いが。

高校時代、ラグビーの練習中に首の骨を折り、
車いす生活になった男性がいる。
学校相手の調停の代理人として、責任追及や
賠償請求をしようとすると、学校側や競技団体側は、
事故原因等の情報を容易に開示しようとしない。

ラグビーでは、20件前後の死亡を含む
重症障害事故が毎年発生。
被害者は、同じような悩みを持つ人と連絡をとるすべがなく、
リハビリや補償などの情報も与えられず、
孤立してしまっている状態。

高槻のような形で、訴訟にして相手に過失があることを
立証しないと救済されない。
無過失であっても、被害者を救済する範囲を
もう少し広げるべきだと思う。

フランスでは、スポーツ活動を行う際、非営利の団体や
連盟などに対し、自分たちだけでなく、参加者やボランティアらの
保険加入を義務付け、加入しない場合、
6カ月の懲役及び罰金を科すことを法律で定めている。

日本は、原則として当事者間の処理に委ねてしまっている。
スポーツ基本法を新たに制定するならば、
フランスのように保険の加入義務を盛り込むことを検討してほしい。
いくら防ごうとしても、事故が発生する以上、
スポーツ被害に遭った人に対して、どうケアするかという視点を
抜きにしては、完全なスポーツ基本法と言えない。

現行の共済制度では、学校事故に対応する
日本スポーツ振興センターからの見舞金の上限は3800万円程度。
高槻のような場合、差額はだれが負担すべきなのか。
引き上げるための原資が足りなければ、
税金を投入することがあってもいいと思う。
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◇かつら・あつひろ

1955年生まれ。同志社大卒。
スポーツ事故、スポーツ選手の契約・肖像権管理などを担当。
日本スポーツ仲裁機構仲裁人候補者。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2010/05/15/20100515dde035070042000c.html

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