2010年8月9日月曜日

オーストラリアのスポーツ政策

(sfen)

◆諸外国へ影響を及ぼした先駆的取り組み

連邦政府が、スポーツに積極的に関与するようになったのは、
1970年代以降。
以前は、オリンピックや英連邦大会(Commonwealth Games)など、
国際競技大会に参加する選手に対する派遣支援といった程度。

1956年メルボルンオリンピックでさえ、政府は特に何もしていない、
という結果が、1964年東京オリンピック開催にあたり、
日本オリンピック委員会による諸外国のスポーツ政策調査で報告。

オーストラリア連邦政府がまず行ったことは、
指導者養成制度の確立。
1978年、指導者評議会(Australian Coaching Council : ACC)設立、
全国統一の資格制度を導入。

1981年、ナショナルトレーニングセンター機能と
スポーツ医科学研究機能を、併せ持つスポーツ研究所
(Australian Institute of Sport : AIS)創設。
20歳前後の若いアスリートに、質の高い指導が提供、
多くのオリンピック選手を輩出。

AISは、イギリスのハイパフォーマンスセンターや日本の
スポーツ科学センター、ナショナルトレーニングセンターのモデルに。

◆スポーツ委員会の機能

政策には、各国の歴史や文化、行政権限などが反映。
スポーツ基本法も、各国で必ず制定されているわけではなく、
スポーツ政策のあり方は、その国の状況によって異なる。

オーストラリアに、スポーツ基本法と呼べるようなものは存在しない。
競技団体の関係する公益法人のあり方などは、
社団法人法などの各州法で規定。
スポーツ権に関する議論も、ほとんど行われていない。

歴史的背景から、国家建設の当初よりスポーツは市民のものであり、
さまざまなスポーツに参加する者の権利保障に関する事項は、
必要に応じて諸法に盛り込まれている。

オーストラリア憲法に省庁の設置規定がないため、
省レベルの組織改編が頻繁に行われる。
実務を担う専門機関が各方面で設立、スポーツ専門機関としては、
1985年、スポーツ委員会(Australian Sports Commission : ASC)が
法律に基づいて創設。

AISが、主として競技スポーツの発展という役割を担っているのに対し、
ASCは、予算配分から政策立案など、
スポーツ行政の中心的役割を担っており、
1989年、ASCの機能の中に、AISも吸収。

権限や任務などを規定したASC設置法
(Australian Sports Commission Act of 1989)が、
スポーツ基本法のような機能を有している。
http://www.comlaw.gov.au/ComLaw/Legislation/ActCompilation1.nsf/0/08D6A321E01176AACA25768C007D9EBE/$file/AusSportsComm89WD02.pdf

◆4年単位のスポーツ政策

近年、オーストラリアのスポーツ政策の特徴は、
オリンピックの4年を期間として、その間の政策ターゲットを
予算とともに明確に打ち出すこと。

1989年、初めて「Next Step」と題する政策を打ち出し、
1992年、「Maintain the Momentum」を発表。
1993年、00年シドニー五輪開催が決定、期間を00年まで延長。

シドニー五輪後の2001年、「Backing Australia's Sporting Ability:
A More Active Australia」を導入。
2008年、「Australian Sport: The Pathway to Success」が公表・展開。

◆オーストラリアから学ぶもの

日豪間では、行政のあり方や社会におけるスポーツの位置付けなどが
異なるため、日本の参考になる点が多くあるとは思えないが、
ここでは3点をあげておく。

第一、スポーツ庁設置という議論が起こっているが、
ASCのようなスポーツに責任をもつ独立した行政機関設置は可能。
スポーツの振興に教育所管省との連携は不可欠だが、
これまでの成果からみても限界があり、独立専門機関が望まれる。

第二、2008年、「Australian Sport: The Pathway to Success」の
中にみられる、競技団体の組織・財政基盤の強化は、
日本のスポーツ界には非常に重要なテーマ。
公益法人改革が進んでいるが、国際スポーツ社会における
力不足が指摘、幅広い意味での組織基盤の強化が求められる。

第三、4年というサイクルでの予算をつけた形での政策展開。
わが国では、スポーツ振興基本計画が展開、
計画の実施期間は10年と長く、ターゲットの設定や
予算をつけた方式というのは参考に。

◆オーストラリアの4年単位の政策

(1)1989年、「Next step」

● AISのプログラムをさらにサポートし、各州間の集中的な
 トレーニングセンターのネットワークを発展
● 指導者の質と量を向上させ、専門の組織を発展
● スポンサーシップを拡大
● 医科学研究の専門的なサポートサービスをさらに発展
● Australian Sports Drug Agency設立、
 薬物テストの回数を増やし、教育プログラムを導入
● AUSSIE SPORT プログラムを発展、
 女性とスポーツの関わりを高める
● 障害者スポーツプログラムへのサポートを強化
● 才能ある若年競技者に対して、助成やサポート体制を強化
● スポーツ管理者の雇用のための補助金を増加し、国内での
 国際的イベントを支援し、組織的な反省や組織の再編成にも助力

(2)1992年「Maintain the momentum」

● 国民のスポーツ参加の増大を図るため、100万人以上の
 スポーツボランティアと3万のスポーツクラブの支援を得る政策を展開
● エリート選手の発掘・育成のため、AIS、各州の
 トレーニングセンターやアカデミー、各種のスポーツプログラム、
 オリンピック委員会が連携しながら、国家的なシステムを構築
● スポーツ団体は、それぞれの競技の発展のための独自の
 戦略的展開と到達可能な目標を設定
● スポーツ科学、スポーツ医学、スポーツ教育、情報、調査の分野で、
 世界最先端のレベルを維持
● 指導者、管理者審判の役割を正当に評価、その育成に努める
● 学校教育における体育やスポーツ教育の重要性への理解を
 各州の教育機関に働きかける

(3)2001年「Backing Australia's Sporting Ability: A More Active Australia」

● 国際競技水準の維持、向上
● すべての世代におけるスポーツへのさらなる参加
● 優れたマネジメント
● ドーピング対策の継続
http://fulltext.ausport.gov.au/fulltext/2001/feddep/active.pdf

(4)2008年「Australian Sport: The Pathway to Success」

● 学校におけるスポーツの役割・意義
● 市民スポーツ拡大のための財政対策
● スポーツのさまざまな場面における女性の参加拡大
● 質の高い指導者の重要性に対する認識の向上
● 地域スポーツの指導者、管理者を5000人増加させ、
 そのための養成に関する助成金の分配
● 優秀な潜在能力を持つ若い競技者の早期発掘と能力の開発
● 地方のスポーツ振興への助成拡大
● 現役、引退した選手の経験を地域へ活かすためのプログラム導入
● ボランティアの重要性の再認識および活動への支援の増大
● 国際競技力のさらなる向上に関する支援
● 高水準指導者の定着率の向上

http://www.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/9BDACC426F0BC9C8CA25771E0080EF4F/$File/Australian%20Sport.pdf

◆森浩寿

大東文化大学スポーツ・健康科学部准教授、
日本スポーツ法学会理事、日本体育・スポーツ政策学会理事、
日本スポーツ産業学会スポーツ法学専門分科会幹事を兼任。
共編「スポーツ六法」信山社、「導入対話によるスポーツ法学」不磨書房、
著書「スポーツ政策の現代的課題」日本評論社など。

http://www.ssf.or.jp/sfen/sports/sports_vol6-1.html

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