2010年9月2日木曜日

「元気は食から」 スポーツ栄養を"伝道" 立命大教授、海老久美子

(2010年8月23日 共同通信社)

最新の調理器具を備えたキッチンと、ちゃぶ台が並ぶリビング。
「洋と和」の実習室が、妙に落ち着く。
「RecO Studio」と呼ぶ。
「スポーツと栄養」をテーマに、20年以上走り続けた
海老久美子(48)がたどり着いた場所。

「ここが、わたしの聖地になる。
元気は食から。
ここから、発信したいことがいっぱいある」

ことし4月、立命館大は滋賀県草津市のびわこ・くさつキャンパスに
スポーツ健康科学部を開設。
海老は、教授に就任。
実習室の見取り図を、一晩で描き上げた。
食の"伝道"の夢が広がる。

全日本アマチュア野球連盟の選手強化本部医科学部会委員でもある。
全国の高校野球チームに、「食べるトレーニング」を指導する。

海老がアドバイスするチームの一つが、彦根東高。
今夏の滋賀県大会決勝で敗れ、甲子園出場を逃したが、
選手たちはがっしりした体格に変わった。

疲労回復には、運動後1時間以内に食事を取るのが理想だが、
進学校で1時間半~2時間かけて通学する生徒もいる。
練習後、「部活食」でエネルギーを補給することに。
地元の弁当会社が協力して実現した。

鶏照り焼き、エビフライ、マカロニ、ブロッコリー、納豆、
オレンジなど、おかずがぎっしり。
丼飯と豚汁を、選手がお代わりする。
1500~1800kcal。
今井義尚監督(50)は、「栄養とトレーニングが合わさって、
体ができることを実感した」

1985年、大妻女子大で栄養士の資格を取り、日立家電に就職。
自社製品を使い、人前で話しながら料理を作る。
食を伝える「原点」だった。
健康ブームが到来し、転職を決意。
89年、フィットネス関連の人材を派遣するスポーツプログラムスに入社。

最初に栄養管理を担当した社会人野球の名門、
日本生命で洗礼を浴びた。
「若い栄養士が上から物を言って、誰が聞く。
選手となじむことからだ。ジャージーを持って来い」

後になれば、コーチの言葉がありがたかった。
「選手は10本。海老は5本」。
坂道ダッシュが待っていた。
キャッチボールで硬球を取り損ね、おでこにコブをつくって
栄養セミナーを行った。

社会人の選手たちが、ベンチ裏でたばこを吸う。
ショックだった。
「食事の大事さは、もっと小さい時から言わなきゃ駄目だ」
高校野球を中心に見るようになった。

食べ物と体の関係を考える目的で、選手に「調理実習」をさせる。
今でこそ好評な試みも、20年前は理解されなかった。

四国の高校で、猛反発に遭う。
選手の父親がかみついた。
「包丁を持たせるために、子どもに野球をやらせた覚えはない。
あんたが東京でやっていることが、どれだけ社会的に意味があるか
わからないが、うちの嫁だけにはしたくない」。
実習を断念。

「野球道具」として食のテキストが必要だと、出版社に売り込んだ。
2000年シドニー五輪で野球日本代表をサポートし、
翌年に高校球児のための「野球食」を出した。
食べる力が練習を乗り切る体をつくり、野球を強くする-。
「野球食」の提言をデータで実証するため、
40歳を前に甲子園大大学院に入学。
日本高野連の依頼で、甲子園大会出場チームの栄養実態も調査。

▽プロの責任

06年、国立スポーツ科学センターの契約研究員に採用。
さまざまなスポーツの第一線に携わるチャンスを得て、
北京五輪を担当。

活動範囲は広がる。
理事を務める日本スポーツ栄養研究会が主管し、日本栄養士会と
日本体育協会の共同認定による「公認スポーツ栄養士」の育成事業
08年にスタート。

昨年、自らも第1期の認定を受けた。
ことし6月、同研究会の取り組みが評価され、
秩父宮記念スポーツ医・科学賞奨励賞を受賞。

海老は、「公認」の意義を強調する。
「スポーツ栄養士を名乗った人はたくさんいる。
でも、専門家では意味がない。
専門職として資格を持つことが大事。
栄養のプロとして仕事をすれば、責任も伴う。
スポーツの現場と同じ言語、同じ意識で話せる栄養士が育ってほしい」

▽おいしい栄養

「スポーツと栄養」の将来像は?
「今までは栄養素ありき。
栄養が先に出て、義務感になりすぎていないか。
おいしいスポーツ栄養を目指していきたい。
自分にとって豊かで、おいしいと思える食事で
体をつくって強くなってもらいたい」

これまで、トップアスリートが対象だった。
誰でも年を取る。
食事への意識も高まる一方だ。
これからは、健康であるための「スポーツと栄養」をどう形にして、
提供してゆくか。

マスターズに参加するような元気なお年寄り、引退したトップ選手が
健全な一般人として、体を維持してゆくための食生活も考えてあげたい。
野球を愛する大人のための「野球食シニア」も書きたい。
アイデアは際限ない。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/8/23/124353/

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