2009年3月1日日曜日

縦割り崩せるか「水の戦略機構」

(日経 2009-02-23)

権威はあるが、権力はもたない——。
そんなうたい文句の組織が発足。「水の安全保障戦略機構
水問題を資源確保、環境保全、防災など様々な角度から統合的に扱う組織、
政策の立案・実行の面で従来とは異なるプロセスを想定している。

どんな組織なのか?
まず権威。設立発起人は、森喜朗・元首相、御手洗冨士夫・日本経団連会長、
丹保憲仁・北海道大学名誉教授の3人。
政界、経済界、学会を代表する「顔」であり、オール・ジャパン体制で
水問題に取り組む姿勢を示す人選。
会社でいえば、取締役会に当たる「執行審議会」の委員には、
産業界・団体の役員、大学教授、有識者など42人が就任。

政界から自民党のほか、公明党、民主党の議員も加わり、超党派の体制。
第1回執行審議会では、森元首相があいさつ、
「ようやく国を挙げて、水に関する取り組みを支援できる構造が生まれます」

「権力」はどうか?
同機構は任意団体であり、法律に基づく権力は与えられていない。
この点では、賢人会議のようなものとも言える。

なぜ、こんな組織にしたのか?
出席したのは、執行審議会の共同議長に就任した遠藤武彦・元農水相と丹保氏。
記者との質疑応答でこんなやり取りがあった。
記者:「国民の関心を集めるには、例えば老朽化した水道管の更新などで
雇用を生み出すプロジェクトを打ち出すべきではないか」
遠藤氏:「私たちが話すのは簡単だが、癒着、談合と言われやすい。
(そうならないよう)わざわざ権威はもつが、権力はもたない組織にした」
国民から、「政治家が水問題で利権を得ようとしているのではないか」と
疑われるのを避けたいようだ。

どうやって政策に影響力を及ぼそうとしているのか?
水問題に取り組む他の組織との関係を示した
「『チーム水・日本』全体像」から見えてくる。

水問題については、経済界や学会などに様々なテーマを掲げた組織がある。
水処理関係の企業が集まり、海外での水ビジネスの拡大を目指している
「海外水循環システム協議会」もその1つ。
水の戦略機構は、これら様々な組織から要望や報告を受けて戦略を策定、
政府などに提言をしていく。

同機構の提言を行政に反映させるのが、「水問題に関する関係省庁連絡会」。
厚生労働省、経済産業省、国土交通省など13の省庁が参加して発足。
「省庁の壁を取り払う」(遠藤氏)狙い。
機構の「権威」が官僚を動かし、連絡会をつくらせたとも言えそう。

同機構の設立を発案したのは自民党だが、あえて超党派の体制にし、
経済界や学会などから多数のメンバーを募った。
“霞が関”を統合的に動かすため、同機構の権威を高めるのが狙い。

「権威はあるが、権力はもたない」という同機構はうまく機能するだろうか?
指導力と透明性の両立が課題に。
権威あるメンバーを大勢集めても、機構としてリーダーシップを
発揮できなければ、縦割り行政の打破はおぼつかない。
多様な水関連団体の要望や報告をしっかり“消化”できるか?
国益を守りながら、海外にも貢献するような提言ができるか?
民間団体などの要望を単に省庁の連絡会につなぐだけでは、
「戦略機構」の名が泣く。

指導力の発揮と同時に、透明性の確保も重要。
戦略機構が省庁連絡会にどんな提言をしているのか?
国民から見えにくければ、遠藤氏が懸念したように癒着、談合のたぐいを
疑われかねない。
省庁連絡会に提言する政策は、分かりやすく一般公開する必要がある。
同機構が指導力と透明性を両立できないと、
「チーム水・日本」の求心力も生まれてこない。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan090219.html

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