2009年3月3日火曜日

英ピアソン日本法人のデラハンティ社長 「デジタルが日本の教育を変える」

(日経 2月19日)

世界最大の教育出版社、ピアソン・エデュケーション(本社英国)は、
デジタル教材の開発など、紙の教科書にとどまらない教育事業を展開。
教育への関心が高いアジアを有力な市場とみて、積極的な投資。
「我々は変革の最先端をいく」と、ブレンダン・デラハンティ社長
日本市場の開拓戦略などを聞いた。

——日本市場の位置づけと特徴は。

「日本は、ピアソンにとって7番目の市場。
最大は米国で、英国、カナダ、オーストラリア、スペインと続く。
アジアでは、香港と日本が売上高でほぼ同規模。
日本と、それ以外の国で違う点が1つある。
日本以外では、学校教育向け教科書を発行。
日本では、英語や日本語など語学学習者向けに特化している

「教育市場という観点でみれば、日本は世界で米国に次ぐ第2位。
日本は、塾など学校以外の教育出費が多い。
中国は、人口が多いものの1人当たりの教育費はまだ少ない」

——少子化により市場が縮小しているが。

「日本の市場は興味深い。
人口減少で、学校教育などの市場は確かに縮小。
欧米に比べ、伝統的な教育制度が生き残っている点も日本の特徴。
教室で先生が教壇に立ち、40—45人の生徒が一斉に学ぶ」

「生徒は本来、1人ひとりが目をかけられるべき。
個人教授に近い教育法が、生徒の力を引き出し向上させる。
教室でも、技術革新が起こるべきだ。
先進技術に秀でた日本人がなぜ、教育分野ではITを積極活用しないのか、
パラドックス(矛盾)だ」

——欧米での教育出版のデジタル化の現状は。

ピアソンの『ブレンディッド・ラーニング(組み合わせ学習)』という
指導法が学校現場などに導入。
先生が教える伝統的なやり方と、最先端のオンライン学習をミックス。
米国では、数学の授業で、紙の教科書とオンラインの問題集を組み合わせ。
教科書に付与された固有の数字で、オンラインの問題集にログインする仕組み。
生徒は、自宅のパソコンで問題集を解き、
得意な分野ではどんどんより難しい問題を自動的に出題。
進ちょく状況や成績は、教師もオンラインで把握できる。
生徒が苦手な分野があれば、教室での教え方を変えられる」

「ピアソンは、オンラインデータを収集。
ネットとの組み合わせ学習は好成績を生み出し、
紙だけの学習よりもはるかに効果がある。
組み合わせ学習の手法は、心理学や経済学などを含め、
全部で43科目が確立」

「生徒が電話で試験を受け、コンピューターが判定する我が社のテストも活用。
試験官の資質に左右されず、客観的な判定が可能。
エッセーを、コンピューターが採点する事業も米国で行っており、
毎年3000万件のエッセーを採点。
英国では、高校生の学習レベルを測る全国テストに活用」

——日本への導入の予定は。

「アジアでは、中国語や日本語などへの対応が難しく、導入が遅れている。
日本でも、大学や高等専門学校など英語学習で取り入れている。
新たな技術が市場に受け入れられるかどうかは、先生の受け止め方による。
デジタル教材を日本に積極投入したいと考えており、
ここ1年で実地調査を行う。
高校の生徒などにメリットが大きいだろう」

「日本市場でも、『TOEFL』と競合する新たな英語テストを秋から導入。
グループの様々な技術を集めて、サービスを開発できるのが我々の強み」

——出版だけでなく、ピアソン傘下の経済紙「フィナンシャル・タイムズ(FT)」
も電子事業に注力。

「ピアソンは、ピアソン・エデュケーションのほか、
FTや書籍の「ペンギン」事業を擁している。
FTは10年前、収益の80%が広告収入。
不況になると、リスクが高くなる事業モデル。
最近は、有料のウェブサイト購読者が増えている」

「書物を生活からなくすことは、当面は不可能。
個人的にも読書が好きで、デジタル機器も使うが、本も読む。
10—20代の人は、携帯電話などの電子機器で文字情報を得るのが当たり前に。
音楽のiTunesのように、新たなダウンロード法の変革が起これば、
ある時点で電子書籍が一挙に普及する可能性はある。
アマゾンの『キンドル』などがあるが、ドイツの企業が開発した、
薄い紙のようなディスプレーの電子書籍機器が1番感触がいい。
使い勝手のいいものが開発されれば、紙の売り上げは減少が避けられない」

電子書籍の成功は、出版社に恩恵をもたらす。
第1に、直販ができることで取次店への手数料がなく、利益率が高まる。
第2に、紙や製本のコストが省ける」

——主力の「ロングマン現代英英辞典」にはどのようなIT技術が活用?

「ピアソンには、コーパスという言語データベースがある。
英語や日本語の話し言葉や書き言葉をネットやメディア、日常会話などから
収集し、ロングマンの英英辞典や英和辞典の製作に生かしている。
言葉が使われる頻度も分析し、最重要の1000語や3000語などを指定。
面白いのは、語学学習者の言い間違いの事例も収集していること。
隠しマイクを服につけて、自然な会話を収録するほか、
ネットのブログからも言葉を集めている。
自然な日本語や英語による辞書が可能な秘密がここにある」

「言葉は日々変わるもの。教育も同じだ。
日本の教育にはリスクがある。
革新的な教え方を取り入れていかないと、今はハイレベルな教育でも、
今後は他の国に追い抜かれるかもしれない。
我々のスタッフはベトナムで、現地政府と英語教育法について話し合う。
サウジアラビアやエジプト、中国でも同様に協力。
日本でも、文部科学省との協議を進めたい。
テクノロジーは、教え方を変えると理解してほしい」

「ピアソンは、IT技術に投資してきた出版社。
我々は、変革の最先端を行く。
ピアソンは、1990年代まで総合商社のようだった。
ウエッジウッド社やフランスにワイン畑まで持っていた。
教育とメディアに絞って事業の選択と集中を進め、
出版事業に必要な最先端技術に投資。
競合他社は、投資しようとしても追いつくのが難しい状況。
教育を向上させるために、紙にこだわらずデジタル化を進めていく」

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/interview/int090218.html

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